第29話後輩

振り向くと少女の様な容姿をした少年が立っていた。水色の長い髪を桃色のリボンで一つ結びをしていて瞳はリボンと同じ桃色だ。

「わー!やっぱり!先輩だ!せんぱーい!」

そう言いながら少年はリリアンナに思い切り抱き着く。リリアンナは危うく体制を崩しそうになるがなんとか持ちこたえた。

「先輩先輩!えへへ…お久しぶりです!」

「うん、久しぶりメルト」

メルト、と呼ばれた少年はにこにこと屈託のない笑顔でリリアンナを見つめている。リリアンナの隣にいたジャックは小声でリリアンナに聞く。

「…この子、誰?」

「この子はね、メルトっていってルイと同じで三本の指に入る程のお金持ちさん、私の中等部時代の後輩だよ」

リリアンナの説明にメルトはちょっとだけむっとした様子で言う。

「む~~お金持ちさんは余計です!先輩の大事な後輩、でいいじゃないですか~!」

ポカポカとリリアンナを叩きながらそう言う姿は少女と見間違える程、綺麗な容姿をしていた。

「あはは…ごめんね?」

「まぁ先輩だから許します!…それにしてもこんな時間に先輩と…男の子?二人で何してるんですか?」

メルトは不思議そうに首を傾げる。

「あぁそうだった、この子はねジャックっていって私の使い魔になってくれた子なの!」

ドヤ、と効果音がつきそうな程リリアンナは胸を張る。メルトはへー!と興味深そうにジャックを見つめる。

「な、なに…」

「いや別に!先輩の使い魔なんだな〜って!」

ジャックを見るメルトの目はあくまでも興味深々といった様子だ。

「でも使い魔がいるからって夜遊びはダメですよ?先輩は女の子なんだから!」

そう言うメルトは真剣だ。リリアンナは誤解を解く為に言葉を発する。

「ちがうちがう、夜遊びなんてしてないよ今日はルイの家でルイと一緒に魔法の勉強していたの」

「ルイ先輩と…」

そう呟いたメルトは少しだけ不機嫌そうな顔をする。が、すぐに笑顔に戻る。

「そうなんですね!誤解してすみません!魔法の勉強か~中等部は魔法についての歴史や話ばかりで魔法実技の授業なんてないですよ~」

メルトはそう言ってちょっとだけ落ち込んだ様子を見せる。リリアンナもわかるな~と思いながらメルトの頭を撫でる。…リリアンナが中等部にいた頃もメルトと同じ様な内容で魔法の実技なんて無かった。だから今マディス学園で魔法の勉強を出来るのが嬉しいのだが…なかなか難しいものである。

「高等部に入ったらいくらでも魔法の勉強出来るよ、だからそれまで頑張って!」

リリアンナがそう言うとメルトは撫でられたまま応える。

「う~…せめて先輩と同じ学年だったら一緒に魔法の勉強出来たのに~…」

メルトのその言葉にリリアンナは苦笑してしまう。メルトとは中等部時代からの付き合いだが、何故かリリアンナにとても懐いている。まるでご主人様と飼い犬みたいな関係だ。とルイは言っていた。リリアンナとしては懐いてくれるのはとても嬉しい事なのだが、たまに暴走するところがあるのだ。

「あ、ここで話していたら周りに迷惑ですよね!それじゃあ僕は今から塾なので行きます!久しぶりに先輩に会えて嬉しかったです!また!……あ、ジャック君も!」

そう言うやいなやメルトは手を振りながら走っていく。リリアンナとジャックも同じ様に手を振りながらメルトの姿が見えなくなるまで眺めていた。

「……なんか、嵐みたいな子だったね」

「ふふ、でもすごく良い子なんだよ」

ジャックの疲れた様子にリリアンナは笑いながら答える。確かに嵐の様に現れて去っていったがメルトのおかげで元気になったのも事実だった。

「明日ルイにこの事話さなきゃなぁ」

きっとルイはその話を聞いて呆れた様に笑うんだろうな…なんてリリアンナは頭の中で考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る