第28話ありがとう
ジャックの言葉で余計に腹を立てるルイの父親は顔を真っ赤にして激怒していた。
「お前…誰に何をしたのかわかっているのか…」
「さぁ?僕はただ自分の主を侮辱されたから仕返ししただけだよ」
ジャックは悪びれる様子もなくそう言い切った。ルイの父親は少し不思議そうな表情をしたかと思うとすぐに理解したのか仏頂面のまま言う。
「ふん…ポンコツ小娘の使い魔か…主人が主人なら使い魔も使い魔だな!」
そう言って嗤う。リリアンナはたまらなくなって口を開いた。
「あ、あの!私の事はなんとでも言っていいですけどジャックの事を悪く言うのはやめてください!」
それは初めてリリアンナがルイの父親に反抗した言葉だった。ジャックは目を丸くしてリリアンナの方を見つめた。
「リリアンナ…」
「小娘、お前まで私に刃向かうきか!」
ルイの父親が怒り心頭と言った様子でリリアンナの方へ向かおうとしたその時─────
「ルートの旦那様!」
そう言いながら一人の女性が走って来た。見たところ、ルイの家に仕える従者のようだった。
「なんだ!私は今とても腹が立っているのだ!用件なら早く言え!」
ルートの旦那様と言われたルイの父親…ルートはまだ怒りで赤い顔を隠そうともせず従者に八つ当たりする様にそう言った。
「す、すみません…ですがあのリトルシア様からのお話でして…」
「リトルシアから…?」
従者は怒っているルートに怯みながらもそう伝えるとルートは先程までの怒りは何処へやら、すぐに仕事の顔に戻る。
「用件は?」
「はい、ルートの旦那様との会議の件についてお話がしたいと…」
「わかった」
それだけ言うとルートはそのまま立ち去ろうとする。
「おい、小娘」
「は、はい!」
ルートに呼ばれたリリアンナは思わず背筋を伸ばして次の言葉を待つ。
「使い魔はちゃんと躾ておけ」
怒っている様子はない。リリアンナは小さくはい、とだけ応えるとルートはその場を後にした。
「はぁ…本当に、父さんがいつもごめん」
「う、ううん!大丈夫だよ!」
リリアンナはそう言ってぎこちなく笑う。とても怖かったがジャックもルイも守ってくれた。
「あ、マリスさんがいるわよぉ」
そばで様子を傍観していたアンジェがそう言う。アンジェの目線の先を見ると確かにマリスが庭に繋がっている裏口からひょっこりと顔を覗かせていた。
「ルイ、リリアンナちゃん晩御飯出来たけど食べる?」
そう言って笑うマリスを見てリリアンナは少し安堵する。
「もうそんな時間か…リリーは今日も食べていく?」
ルイがリリアンナにそう聞くとリリアンナは返答に困ってしまう。…先程ルートとあれ程の言い合いをしたのだ、その場所で晩御飯を頂くのは少し気が引ける。きっとルイもマリスもそんな事気にしなくて良いと言うだろうがリリアンナはそれでも気にしてしまうのだ。
「ううん、今日は自分の家で食べるよ、ありがとうこざいます!マリスさん!ルイ!」
「リリー…」
ルイが何か言いかけようとしてやめた。ルイもわかってくれたのだろう。リリアンナはそれに心の中で感謝した。
「じゃあ帰ろうジャック」
「……ん」
ルイとマリスとアンジェに挨拶するとリリアンナはジャックと共に家路につく。
「あの…」
「うん?」
リリアンナはジャックを見つめて首を傾げる。ジャックは反省した様な表情でリリアンナに目を向ける。
「僕、余計なことしたかな…?」
余計なこと、とは…先程のことだと言うのはリリアンナにもわかった。リリアンナはぶんぶんと首を振りながら笑顔で答える。
「そんなことないよ!私の為にしてくれたんだよね?」
そこまで言ってリリアンナはジャックと向き合う。
「ありがとう!ジャック!」
そう言ってリリアンナは笑った。ジャックも少し照れた様に頷く。
「………うん」
夜の十九時、道の真ん中でリリアンナとジャックは笑い合う。すると──────
「………先輩?」
とある声がリリアンナとジャックの耳に届いた。
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