第22話六日目
「ルイ~~~………」
「わぁ、どうしたのそんなに目を腫らして」
リリアンナの姿を見てルイは思わず駆け寄る。リリアンナとジャックが喧嘩した昨日、ジャックは口も聞かず、リリアンナを避けるようになった。リリアンナが話しかけても無視するのでだんだん悲しくなってしまったリリアンナは枕を濡らしながら眠りについた。
……その事をルイに話すとルイは理解したようでリリアンナを優しく慰める。
「よしよし、大丈夫だよ」
「ちょっとぉわたしの前でいちゃつかないでくれるぅ?」
優しい表情でリリアンナの頭を撫でるルイとされるがままの状態のリリアンナを見ながらアンジェがそうつまらなそうに言った。
「そういえばぁ、ジャックは?」
ふと疑問に思ったアンジェは小首を傾げながらそうリリアンナに問う。リリアンナはルイに頭を撫でられ続けられたまま答える。
「…もう学園への道は覚えたから一人で行くって…こんなんじゃきっと明日の契約期間最後も断られて私だけ使い魔がいなくて…またみんなからポンコツって言われるんだ~~」
昨日の夜たくさん泣いたにも関わらずまた泣きはじめる。
だって、だってわからないんだもん。ジャックが何を考えているのか、何であんな事を言ったのか…リリアンナはそんな事を思いながら自分が悪かったところを考えながら、けれどわかるはずもなく、泣くことしか出来なかった。
「あぁあぁ…そんなに目を擦るとまた腫れちゃうよぉ?」
そういうや否やアンジェはハンカチをリリアンナに渡す。リリアンナはアンジェの好意に甘え、ハンカチを受け取り涙を拭く。チーン!と鼻水をかむというお約束までしてまだ腫れぼったい目で感謝を告げる。
「ありがとう、ルイ、アンジェ…ハンカチ洗って返すね」
いつも元気なリリアンナが見たことないくらい落ち込んでいるからかルイもアンジェも何も言えなかった。それはクラスメイト達も同じだった様で朝からどんよりオーラ全開のリリアンナを揶揄う様な事はしなかった。そして、ジャックも何も言わずにリリアンナから離れたところでその様子を見ていた。
…いつも元気なリリアンナでさえ魔法は失敗するというのに落ち込んでいるリリアンナが魔法を成功させるなんて到底無理だった。いつもの様に魔法を失敗して、教師に怒られて…けれどリリアンナはそんな事よりもジャックの事ばかり考えていた。
「………ぁ」
「…………」
昼休み、いつもジャックがいる場所に足を向けて見ればその姿はいた。
「ジャック…」
ジャックは寝そべったままリリアンナを見た。逃げる様子はない。リリアンナはそっと近付くと隣に腰掛ける。
………無言の時間が続いた後、リリアンナが口を開く。
「…なんでジャックが怒っているのか正直私にはわからない…」
下を向いたまま、続ける。手は少し震えていた。
「でも、私が悪かったのなら謝るし、ジャックとちゃんと仲直りしたいよ」
それだけ言ってリリアンナはぎゅっと目を瞑る。ジャックの言葉を聞きたい様な聞きたくない様な…そんな気持ちでジャックが口を開くのを待つ。
「全然君はわかってない」
ジャックの言葉は冷たくて、でもどこか悲しそうだった。
「違うんだよ、僕、僕は…」
ゆっくりと顔を上げてジャックを見ると少し困惑した様な表情をしていた。
「僕は君にそんな顔させたくて怒ったんじゃないんだよ…」
ジャックがリリアンナを肩を掴む。
「僕は…」
次の言葉を待つリリアンナと目が合う。リリアンナの目が腫れている事に気付いたジャックは唇を噛んだ。
「…ごめんね」
それだけ言うとジャックはリリアンナの肩から手を離そうとした…けれど
「待って!」
リリアンナがジャックの手を握った事によりジャックは本当に逃げることが出来なくなった。
「私、ポンコツだし、魔法上手く使えないしジャックにも迷惑かけると思う、けど!」
手を握る力が少しだけ強くなる。そして言った。
「だけど私はジャックと仲直りしたいし一緒に居たいよ…前にも言ったけど私はジャックと仲良くなりたい…だから契約とかそういうのとは別で仲直りしてくれないかなぁ?」
そう言って泣き腫らした目を細めて笑う。
「…あ」
ジャックはリリアンナのその表情を見て、わかった。この怒りの理由を…
「あの、ジャック?」
リリアンナが不安そうにジャックを見つめる。
「そうか、そうだったんだ…」
ジャックは一人で納得した様子だ。
「うん…うん、決めた」
「な、何を?」
リリアンナの問いにジャックは今まで見せた事ない様な優しい表情で言った。
「まだ内緒…明日になればわかるよ」
その言葉の真意はわからなかったが昨日まであった険悪な雰囲気はなくなっていた。
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