第21話五日目

朝から大変だった、とジャックは木陰に寝そべりながらそんな事を考えていた。

いつもの様に遅刻したリリアンナはリンに説教され、魔法の実技の時も低級魔法だというのに何度も失敗して周りから笑われていた。だがリリアンナは落ち込む様子もなくヘラヘラと笑っていたのだ。…それがジャックにとってとても腹立たしかった。何故なら…

「はぁ…」

ジャックは溜息を吐くとベンチに腰掛けているリリアンナを見る。相変わらずヘラヘラした顔をしながら幼なじみのルイと昼食をとっている。ジャックはその様子を見ただけで無性に腹が立った。

「…ねぇ」

ジャックは起き上がりリリアンナへ声をかける。リリアンナはジャックを見つめて首を傾げた。

「なぁに?」

「……いや、なんでもない」

「えぇ?それ前も言ってたよね?何か言いたい事があるなら言ってよ」

リリアンナそう言ってジャックに近付こうとするがジャックは一歩下がる。

「本当になんでもない…」

「そう?なら良いけど…」

リリアンナは渋々といった様子でまた昼食をとり始める。

ジャックもこの腹立たしさは何なのか、理解していた。だが、言えるはずもなかった。

─────それじゃあ先に教室に戻っているね

ルイはそう言うとアンジェと一緒に去っていった。リリアンナも昼食を食べ終え、軽く勉強の復習をするとジャックに告げる。

「それじゃあ私達も行こっか」

「……ん」

そう言ってリリアンナとジャック、二人して立ち上がる。教室への道すがらある生徒二人がこそこそとリリアンナを見るなり話し始めた。

「…ねぇ見てあの子、もしかして噂の…」

「あぁ、あのポンコツって言われてる子?」

その声を聞いたジャックは思わず立ち止まってしまう。

「…?どうしたの?」

リリアンナは気にしていない様子でジャックに声をかける。

「あの上級精霊もきっと禁忌魔法でも使って呼び出したんだわ」

「あはは!なにそれ!でもそれが本当だったらさぁ…」

…あの子とっくに死んじゃってるんじゃない?

その言葉を聞いた瞬間ジャックはその生徒二人のところへ行こうとした、が…

「待って」

ぐいっと腕を引っ張られる。リリアンナだ。リリアンナがジャックを止めた。

「気にしなくて大丈夫だよ」

リリアンナはそう言って笑う。

「それにポンコツって言われるの慣れたし!ジャックが気にする必要ないよ!」

リリアンナのその言葉を聞いてジャックは今までの怒りが湧き上がった。

「………してよ」

「…え?」

「いい加減にしてよ!」

ジャックの大きな声にリリアンナは驚く。そしてその場にいた生徒二人も驚いた様に振り返る。

「なんで君はいつもいつも…そうやってヘラヘラして馬鹿にされても平気そうな顔するのさ」

「ジャック…」

「そんなんだから君は…!!…ッ」

ジャックはそこまで言うと口を噤む。

「…もういい、いまの僕に関わらないで」

それだけ言うとジャックは走早にその場を立ち去る。

「…何?喧嘩?」

「さぁ…」

生徒二人の声が聞こえてきたがそんなのはジャックにとってどうでもよかった。…今は何も考えたくない。

取り残されたリリアンナはその場に立ち尽くす。

「……ジャック」

何処か悲しそうにリリアンナはジャックの名前を呼んだが、ジャックに聞こえるはずもなかった。少し日が傾いた廊下でリリアンナとジャックは初めて喧嘩をした。

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