第9話優しい言葉

「また遅刻ギリギリ…」

「うぅ…すみません…」

ルイはため息を吐きながら時計を見つめ、リリアンナは申し訳なさそうに頭を下げた。またリリアンナが遅刻ギリギリに登校した。小さい頃から慣れていると言えどやはりこのやり取りは毎回続いている。

「まぁいいや、早く教室行こう」

ルイはそう言って歩いていく。

「…あ」

リリアンナはルイの背中に向かって昨日の事を謝ろうとして声を出す、すると

「あのさ」

ルイはこちらに振り向きぴしっと指をたてて

「迷惑だとか、後ろめたい気持ちになんてならなくていいんだから、リリーはリリーのままでいて」

まるでリリアンナの言いたいことを見透かした様な発言にリリアンナは呆気にとられる。

「だからもうお互いに謝り合うのは無しね」

そう言ってまた前を向いて歩きだす。

…あぁ、ルイが幼なじみでよかった。

リリアンナはルイの優しい言葉に救われた気持ちになり、ルイの後を追う。目的の教室までつくと元気良くリリアンナが扉を開ける。

「おはよう~!」

「お~!ポンコツじゃん!おはよう~」

その一言で一瞬リリアンナの時間が止まった。ポンコツとは間違いなくリリアンナの事を言っているのは明らかだ。

「ルイもおはよう!」

隣にいたルイは普通に名前を呼ばれて普通に挨拶されている。その差が少しリリアンナの胸をチクリとさせる。ルイは何か言おうとして口を開けるがリリアンナが止める。

「大丈夫、私がポンコツなのは昨日の魔力値のテストでわかったからもうこの状況を認めるよ…」

リリアンナが諦めた様にそう言うとルイも何も言わずに頷いた。魔力値のテストで合格ギリギリの三十の魔力値を出したリリアンナはどうやらクラス内外でもちょっとした有名人になっていた。…全く嬉しくはないけれど、そしてルイと言えばテストで優秀な魔力値を出した事からリリアンナとは別の意味で有名人になっていた。天と地の差がすぎると言うものだ。そんな事を考えていたリリアンナの耳に凛とした声が入ってきた。

「皆さんおはようございます、席について下さい」

その声の主はリンだった。リリアンナはすぐに自分の席へとつく。

「ルイ・ファリス、貴方も」

「…はい」

ルイも自分の席へ向かい椅子に座る。ルイはリンの事が嫌いなのでは…とリリアンナは思っていた。まぁそんな事をルイに直接聞こうとは思わなかったけれど。

「全員揃っていますね、では今日はメルシアという街について詳しく話したいと思います」

リンはそう告げると片手に持っていた本を開く。

「このメルシアの街の歴史はとても有名ですので知っている人もいるかもしれませんが…復習だと思って聞いて下さい」

そうしてリンはメルシアの街の歴史について語り出した。

「あれは千年前───」

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