第8話突然の来客

その声を聞いたリリアンナは少し嬉しそうに声をあげた。

「お父さん…!」

お父さん、と呼ばれた男性は先程までの状況を知らなかったせいか、ふわふわした雰囲気でリリアンナに手を振る。

「いつもお世話になっていますマリスさん、社長、ルイ君も」

リリアンナの父親がそう言うとルイは軽く頭を下げる。ルイの母親…マリスもいえ、と呟き頭を下げる。

「ふん、厄介者が増えたな…アリス!さっさと娘を連れて帰れ!」

ルイの父親は虫の居所が悪い様でそれだけ言うとリビングの奥へと消えていく。マリスはリリアンナの父親、アリスの元へそそくさと近寄ると先程よりも深く頭を下げる。

「アリスさん…申し訳ありません、また夫が失礼なことを…」

「あぁ、いえ!いいんですよいつもお世話になっております」

頭を下げて謝罪するマリスを宥める様にアリスは言う。

「…またいつでもいらして下さいね、いつでも待っています」

リリアンナが帰る支度をしてそろそろ帰ろうという時にマリスはそう言って笑った。

「リリー…」

ルイはおもむろにリリアンナの側へ近寄ると眉を下げて言った。

「ごめんね」

「ううん全然!こちらこそいつもありがとうございます!」

リリアンナは笑顔でそう言う。ルイはその笑顔を見て少し考えた素振りを見せた後、納得した様に頷いた。

「さ、帰ろうかリリアンナ」

「うん!それじゃあまたね!ルイ!おばさん!」

そう言って手を振るとルイもマリスも優しい笑顔を浮かべながら同じ様に手を振り返してくれた。夜のメルシアの街をアリスと歩く。リリアンナは先程ルイの父親に言われた言葉を考えていた。

………そりゃぁ迷惑だろうなぁ

ルイの父親の言葉は冷たくていつもリリアンナの胸に傷をつける。だけどリリアンナもわかってはいた。迷惑をかけているのはリリアンナもアリスもわかってはいるのだ。けれどもいつまでもルイとマリスの優しさに甘え、家に招き入れてもらって温かい食事をとらせてもらっている。ルイの父親は厳しくて冷たいけれどなんだかんだ言って無理矢理追い出したりはしない。

「リリアンナ?」

ふと、名前を呼ばれたリリアンナははっとしてアリスへ目線を向ける。

「どうしたの?何かあった?」

「ううん!なんでもない!大丈夫だよ!」

そう言って笑って見せればアリスはそうか、とそれ以上何も言わなかった。それが今のリリアンナにとっては救いだった。

『ごめんね』

ルイの言葉が脳裏によぎる。…本当に謝らなければいけないのはこちらなのに…

少し泣きそうになりながらもなんとか堪え、アリスの手をぎゅっと握る。冷たい風がリリアンナの頬を掠めた。

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