第6話あたたかい場所

メルシアの街の中でも富裕層が住む区画に入る。そこには白い大きな建物が目に入った。

「ただいま~」

ルイはそう言うとリリアンナを家に招き入れる。

「お邪魔します!」

リリアンナはいつもの様に明るい声でそう言った。するとバタバタとこちらに走ってくる女性の姿が見えた。

「あら、ルイおかえりなさい!リリアンナちゃんも!晩御飯もう出来ているからね!」

そう言いながらエプロンで軽く手を拭いているのはルイの母親である。優しくて人当たりの良い性格から周りからも信頼されている。

「うん、今日は…シチューかな?リリーと手を洗ったらリビングに行くよ」

「えぇ、ぜひそうして!リリアンナちゃんもゆっくりしていってね!」

ルイの母親は笑顔でそう言って去っていく。ルイと一緒に手を洗いリビングへ行くとちょうどルイの母親がシチューを皿によそいでいた。

「さぁ!たくさん食べて!今日は入学式で疲れたでしょう?リリアンナちゃんも遠慮なく!」

「ありがとうございます!」

リリアンナとルイは手を合わせて頂きますと言うとルイの母親が作ったシチューを食べ始める。

「んー!やっぱりおばさんの料理は美味しいです!」

リリアンナはシチューを食べながらそんな感想を述べる。ルイの母親は嬉しそうに目を細めた。

「ふふ、いくらでもおかわりしてちょうだい、たくさん作ったから」

そう言ってルイの母親もシチューに手をつける。

リリアンナとルイの家族はリリアンナとルイが小さな頃からよく仲良くしていた。ルイの家族はメルシアの街でも三本の指に入る大富豪でリリアンナの様な平凡な生活を送っている者とは関わらない…と思われているが、実際はルイもルイの母親も誰にでも優しく家に招き入れてくれるのだ。リリアンナとルイは物心つく前から一緒にいた為、リリアンナの父親の帰りが遅くなる日はルイの家で料理を食べるのが普通の事となっていた。

「母さん、父さんはまだ帰らないの?」

「…あぁ、あの人は…そうねまだ仕事かしら」

ルイの質問にルイの母親は静かに答える。ルイの父親はいつも仕事が忙しいらしく、リリアンナもルイも片手で数える程しか会ったことはない。

「まぁあの人が居ない方が楽よね、ね?リリアンナちゃん?」

「あ、あはは…そうですね…」

リリアンナはルイの母親にそう言われ思わず苦笑してしまう。…ルイの父親は、ルイの母親とは違い、貧富の差を気にし、リリアンナもリリアンナの父親の事もあまり良くは思っていない。リリアンナが遊びに来ると知ったら口には出さないものの嫌そうな表情をして仕方なさそうに許していた。

「父さんも考えが古いよ、今どき貧富の差なんてあまり問題にはならなくなってきたじゃないか」

シチューに口をつけながらルイはそう言う。確かに最近では貧富の差を無くす運動が政治方面でも話題に出ている。

「そうよ!だからリリアンナちゃんも心配しなくて大丈夫よ」

ルイの母親はそう言って安心させる様ににこりと笑う。それがリリアンナにとって嬉しかった。

リリアンナには母親が居ない。リリアンナが産まれてすぐに何処かへ行ってしまったとリリアンナの父親はリリアンナにそう告げた。だからルイの母親はリリアンナにとって母親の様な存在なのだ。そんな事を考えながらシチューを食べようとしたところに玄関のチャイムが鳴る。

「あら、お迎えかしら?」

ルイの母親はそう言って玄関の方へ向かう。

「シチュー美味しいね」

「まぁ母さん家事だけは得意だから…」

そんな会話を続けていると一人の男性が入ってきた。その姿を見てルイもリリアンナも驚いた表情をする。

「父さん…」

「お、おじさん…」

その姿は間違いなくルイの父親であった。

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