第5話ポンコツ

リンのその言葉にクラスの生徒達がざわつきはじめる。

「え、魔力値三十って…」

「いくらなんでも低すぎだろ、俺でも四十はあるぞ」

「そんなに魔力が低い魔法使い居るんだ」

ざわついた声の中にはリリアンナの魔力値の低さに驚いていたり、馬鹿にする様なものもまじっていた。

「静かに!…こほん、リリアンナ・フローテ、合格点には達してはいます、お疲れ様です、席に戻って下さい」

「は、はい…」

何故だろうか合格したというのにそこまで嬉しくは感じなかった。

「…リリー」

ルイが心配そうな声をかける。リリアンナはぶんぶんと頭をふり努めて明るい表情で言う。

「大丈夫!合格出来たんだから!ルイったら心配性だなぁ!」

明らかに空元気だと、ルイにはわかっていたが大切な幼なじみをこれ以上傷付けることはしたくないと思い、何も言うことはなかった。

─────暫くすると全ての生徒達がテストを受け終え、殆どの生徒が合格していた。

リンは赤髪を揺らしながら生徒達に告げる。

「合格した生徒達の皆さん、おめでとうございます、これで貴方達はマディス学園の新入生として正式に認められました明日から本格的に授業が始まります、プロの魔法使いになりたいのなら全てに全力を注ぎなさい」

リンの言葉にクラス中の生徒達が息をのむのがわかる。リリアンナもその一人だ。

「それでは今日はここまで、皆さんお疲れ様です」

リンは水晶を大事に抱え、もう帰っていいという様に教室から立ち去る。リンが居なくなった教室はたちまち緊張感が解け、わいわいがやがやとした空気に包まれる。

「あ~緊張した…リン先生怖すぎ!」

「でもめちゃくちゃ美人だよな~彼氏とかいるのかな?」

「お前な~…」

ほとんどの生徒達が会話を弾ませる中、ルイは荷物を片付けるとリリアンナの方を向く。

「じゃあ帰ろっか、リリー今日はおじさん帰り遅いんだよね?」

「うん、だから今日も夜までルイの家に居て良いかな?」

「もちろん、母さんも喜ぶよ」

ルイはそう言って笑う。リリアンナもほっとした様に帰り支度を始める。だが…

「おーいお前、リリアンナだっけ?魔力値三十って…弱過ぎるだろ!」

あはは!なんて笑う男子生徒をかわきりに他の生徒達も笑いながら言う。

「ほんとほんと!なんでそんなに魔力値低いの?」

「魔法使いなんて目指さない方が良いんじゃない?」

「て言うか魔力値低い子がなんで魔力値六十七もあるルイ君と仲良いの?」

全ての言葉がリリアンナを馬鹿にするものばかりだった。そしてある一人の生徒の言葉によりリリアンナは周りから"そう"呼ばれる様になる。

「魔力値低くてこんな風に皆から罵倒されて…君ってポンコツだね」

その言葉を聞いた生徒達はぎゃはは!と汚い笑い声を上げ始める。

「なにそれ天才!!お前は今日からポンコツな!」

よろしくポンコツ!という生徒達から向けられる感情は明らかにリリアンナを下に見ていた。

「…黙れよ」

低い声が響いた。リリアンナではない、リリアンナの隣、ルイからその言葉が聞こえた。

「さっきから黙って聞いていればポンコツ?魔力値が低いからってそこまで言う必要ある?リリーがどんな思いでこの学園に来たか知りもしない癖にお前達みたいな奴らが偉そうにリリーを語るな」

静かにけれど怒りに震えた声でルイはそう言った。すると先程までリリアンナを馬鹿にしていた生徒達はしん…と静まりかえる。黙って聞いていたリリアンナはこれはまずいと慌てた様に周りに笑顔を振り撒く。

「あ、あはは~!ポンコツか~!確かに!皆よりも魔力値低いの事実だしなんにも言えないよ~!あ、あと!私とルイは幼なじみなだけだから!それじゃ、失礼しまーす!」

急いでルイの腕を掴んで教室を後にする。リリアンナは自分を庇って怒ってくれたルイに感謝を覚えつつも罪悪感も感じていた。

「ルイ、ありがとう」

精一杯考えて出た言葉はそれだけだった。けれどルイには伝わった様で…

「ううん…急にあんな事してごめんね、リリー」

夕暮れに染まる街をリリアンナとルイは一緒に歩く。それを学園の窓越しに見る人影が二つ。

「…ついに"彼女"の子がきましたか…」

「…えぇ」

「これからどうなるのか私達には分かりませんが…」

一つの人影がリリアンナを見つめる。

「見守っていきましょう、"彼女"の未来を」

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