五ノ噺 醜き小鬼
我はそれから引き続き王都周辺の雑草を引き抜いていた。
この仕事に目安は無く、達成条件もなく。ただギルドの一つ。清掃ギルドと呼ばれる組織の貢献になれば良いと言う。
ただ神の僕だとしても、果てなき労働は流石に謙りすぎだとやる前に考えていたところだ。だがこれが人のためになるならば、疲れなど忘れられる物だ。
だが我とアレクとフィリアとローベルトの四人では些か難しい所。
ここは神の使者であり僕である我の声で自然の精霊に語りかける時だろう。
目には見えなくとも、彼らは我々の頑張りを必ず見ている。
我は一人で立ち上がり、両手で天を仰ぐ。
「地の精霊よ、水の精霊よ、草花の精霊よ、我が声に応え給え。
我、大自然の精霊と異界の女神の名の下に刻まれる神の使者なり」
「カグラさん? なんか、また始まりましたね……」
「ほっとけ」
我は続ける。
「自然にまつわるすべての精霊よ我が声に応えよ。自然の神が創られし異物をこの世から消し去るのだ。
これは我が命令ではない。神への奉仕である」
すると天を仰ぐ我の手の中に少しずつ黄緑色に輝く光の粒が集い始める。
おぉ、感じるぞ。聞こえるぞ。小さい精霊の声が……!
「え!? フィリアさん。こんな魔法ありましたっけ?」
「私……知らない。なんの魔法……かしら?」
「そもそも精霊とは人の身近にいるものではない。ならばカグラの前に集まる光はなんだ?」
「行け! 世界の隅々まで!」
そう我が言えば、集まった光は一気に全方向へ飛び立った。
そして緑の光が通り過ぎる場所は瞬く間に無駄な雑草が全て消え去り、美しい草花が次々と一面に広がっていく。
「えええええ……」
「わぁ……」
「清掃ギルドの仕事が無くなったな……」
完璧だ! 流石精霊たちだ。あとで大自然の精霊に言って彼らに褒美を与えなくてはな。
「終わりだ行こう」
「グッゲェエエア!! グキヤー!」
帰ろうとしたその時だった。自然の精霊達が飛んで行ったその草花の先に、全身緑色の身体をした醜き姿のいかにもな魔物が、激昂しながら草花を踏み荒らしていた。
「なんでこんなところにゴブリンが!? 急な環境変化にまさか……」
「めんどくさ……」
「まだカグラはGランクだ。魔物との戦闘は許可されていない……! カグラはそこで見て俺に任せろ!」
おぉ、なんと愚かに醜態を晒す獣だ。精霊たちの奉仕を泥に塗れた足で踏み荒らすとは。万死に値する愚行だぞ。
そして我も不愉快。非常に不愉快だ。アレもまた命の神が人と動物の数の均衡を保つためにその二つを殺す存在。
『魔物』と呼ばれる命の一つであるが、今我が目の前でやっているそれは、本来の使命から逸脱した行為である。
本来なら命の神が彼を裁くが、神さえも想定していない他の創作物を個人の感情で汚す行為は、許容範囲を大きく超えている。
ここは神の国が定めた特殊ルールを適用しなくてはなはない。
"神が定めた神以外の生命に対する掟にて、その想定外を突いた行為は全て違反と見なし、これを発見したものが直接罰すること。"
だから我がここで罰しよう。
「貴様など神の炎で燃やす価値も無い。また地獄の炎で焼く価値も無い。
ならば自然の炎で燃えよ! その骨も残らなくなるほどに焼き尽くしてくれる!」
「うおおおぉ! なっ!?」
我が述べた瞬間、獣の内側から灼熱の炎が燃え上がる。
身体の内側から、身体の中心から、直接焼き消し炭にする。
「グギャアアアア!!」
獣が我の炎で燃えること約三秒。絶大な火力を前に、獣は跡形もなく燃え尽きた。
「あぁ、我がここまで不快に思ったことはいつぶりか。
全く、余計な手間をかけさせるな」
そう我は一つ息を吐いて手を叩けば、ローベルトが凄まじい形相で我に詰め寄ってきた。
「おいおいなんて報告すりゃ良いんだよこれ……カグラ! お前はまだGランクだと言っているだろ!
ギルドではな、例え低ランクでも戦闘能力を持っていても、許可が降りる前に如何なる理由でも魔物は倒してはいけない!」
「それは何故だ……?」
「低ランクは弱く。高ランクは強い。ギルドランクはその人の実績や名声に一切関係なく、肩書きで信頼が決まる。
なのに、低ランクなのに信頼出来るなんて言われちゃあ高ランクの仕事が無くなるからだ。これは単純に言えばギルドの運営妨害にあたり、破った者は罰金を課せられる。
今日は俺が払ってやるから、カグラはEランクになるまで魔物は一切討伐するな」
ふむ。なんと面倒な決まりか。そんな肩書きや行動制限なんぞなくとも我がいれば出来ぬことなどないというのに。
この世は魔王の危機などどうでもいいと思っているのか。今もなお、どこかで魔王の配下が何処かを襲撃しているかもしれないのに。
あー退屈だ。女神は我がこの姿をみて呆れているに違いない。
我は大きくため息を吐いて、ギルドへ戻った。
生粋の厨二病が行く異世界無双 Leiren Storathijs @LeirenStorathijs
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