四ノ噺 旅の始まり

 冒険者ギルドで我を守る盾と合流した後、ギルドの受付に向かった。

 外に出る前に国王から話をよく聞けと言われたからである。


 すると受付には……この世の者とは思えない程の絶世の美女がそこにいた。

 美しく長い金髪をなびかせ、童顔とも言える整った顔立ちはまさに女神。

 いや、まさか貴方は……。


「かの神の国で会った女神か!! あぁ、こんなところで再開出来るとは……!」


「私は冒険者ギルド受付のオリヴィアです。女神とかは人違いですよ」


「いや、貴方は女神の化身だ。人間に本当の正体をバレるわけにいかないからな。だがしかし、我の目を誤魔化すことは出来なかったようだな……」


「新手のナンパかな……」


 女神の言葉ならば一文一句逃さずに聞くとしよう。これは我が旅の重要なことだからな。


「えぇっとそれで貴方は……」


「我が名は鳳龍院ほうりゅういん 神楽かぐら! かの魔王を討ち倒すために召喚された勇者である!

 さぁ、女神よ。我を魔王まで導くのだ!」


「はい。冒険者登録ですねー。ホウリュウイン・カグラさんっと……お仲間さん方は既に冒険者なんですね。登録料は特別に免除して……。カグラさんはGランクから始めてもらいますー」


 いきなりゴッドだと……? これが勇者の権限か。

 フフフ……ハッハッハッハ! 勇者の称号を持ちながら神の肩書きを持つとは。流石に持ち上げ過ぎだ。


「ふむ。それで、Gランクとはなんなのだ。これからの旅に関係することなのか?」


「はい。例えカグラさんが勇者だとしても此処冒険者ギルドでは全員平等な扱いをさせて頂きます。

 冒険者ギルドランクは、SSSトリプルエスランクを最高にSSダブルエス→Sと下り、ここからはABCDEFGとなりGランクが最低ですね。

 このギルドランクは世界中で重要視されていまして、ランクごとに行動制限を課せられます。

 なので、各自分に合ったギルドに登録せずに無所属で隣町に行くことは出来ません。カグラさんは恐らく戦闘が得意ということで冒険者ギルドに入ったんでしょうけど、他には商人ギルドや全ギルドに貢献するための遠征ギルド等があります。

 ということなので、何処に行くにしろ。必ずギルドに所属してギルドランクを上げてください。以上です」


 ふむふむギルドランクか。ゴッドランクでも十分だというのに、さらに上があると言うのか。

 ギルド……か。なかなか敷居が高い組織なのだな。

 恐らくGの上のFはFrontierフロンティアのFだろうな。Godより高ランクなのは遺憾だが、それがこのギルドでの呼び方なのだろう……。


 しかしそれはそれとして、行動制限までするとは予想外だった。

 勇者たるもの、名だけでは信頼は勝ち取れないということか。何がなんでも名声。名を上げる声が無ければ何も意味を成さないと言うことか。

 良いだろう!! 我神楽がすぐにSSSランクに達してやろう!


「よく分かった! それが魔王討伐に続く神からの第二の試練ならば、快く引き受けよう! 王の盾。アレク、フィリア、ローベルト! いざ旅の始まりを行かん!」


 それから我がGランクからFランクに上がるための依頼は、外の雑草抜きだった。

 雑草を抜く間アレクが静かに口を開く。


「あれだけ張り切って出発して、勇者の手伝いは雑草抜き……か」


「アレクよ。なにか不満か?」


「いや〜、別にカグラさんに不満は無いんですけど、いくら平等な扱いだからって雑草抜きからだなんて」


「何を言っているんだアレクよ。まさかこの雑草抜きに不満を抱いているというのか?

 アレクよ。お前はどうやらこの雑草への認識を改める必要があるようだな」


「え……?」


 「この雑草はな、たしかに抜いてもただの雑草だし、回復薬にもならないただの草に過ぎない。

 しかしこれは大自然の神が緑を創られた時に生まれた異物なのだ。我らはその異物を取り除くしもべ。例えこの世界で勇者になろうともそれもまた僕であり、僕は神に逆らうことは出来ない。


 たとえこれが神の意思の下でなくとも、僕が雑草を抜くというこの行動自体に、神によって定められた運命があるのだ。

 よって運命に逆らうことは出来ず、万が一逆らうようなことが有ればそれは神への反逆に当たる。

 神への反逆は、僕にとって最大の重罪。だから我々は不満を漏らさずに雑草を抜くのだ」


「ええええええええ………」


 そう我がアレクを説教していると同じく作業をするローベルトがアレクの肩を叩く。


「アレク。カグラへの問答は無駄だと思え。最初から気づいていることだろう? ストレスがあるなら俺たちに吐け」


「あぁ、そうだね。それが正しいや」


 全くアレクもローベルトも分からんやつだな。だがまだこれは始まりに過ぎない。

 この我と旅することはこれからこの世界の歩き方を知ることにも繋がる。

 とことん我の意志を受け継がせなければならない。

 我の同じ意志を持つことが既に決められた勝利を彼らも掴むことにつながるのだから。

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