三ノ噺 王の盾
それから王宮を出た我はすぐに冒険者ギルドへ大声で入った。
「頼もう! ここに我に仕える勇者の仲間がいると聞いた!」
そうするとギルドの中にいるすべての人々が一斉にこちらを向いた。
どうやら我の声が皆に響いたようだな。まぁ、神の使者だから当たり前だろうな。
すると、険しい表情で我に近づく男がいた。
「おいコラてめえ。朝からうるせぇんだよ。勇者様かなんだか知らねぇが、俺は二日酔いで頭が痛ぇんだよ。ちったぁ静かにしやがれ」
「ほう、この我に気軽く話しかけた度胸は褒めてやろう。しかし、我は勇者であるぞ。そんな口の聞き方をして良いのだろうか?」
二日酔いがなんだ。そんなもの我に興味は無い。我は我に仕える仲間を探しに来たのだ。
もちろん例えお前が我の仲間であろうと、我はお前を仲間だと認めんがな。
「なんだとコラ……話を聞いていなかったのか? 俺は……」
「黙れ。貴様のような愚民がこの我に、それ以上話しかける権利は無い! 早々に我の前から立ち去るが良い」
「は……? てめぇまじで殺されてぇのか?」
まさか、我が殺されるだと? ありえない。我がこんな輩に殺されるなどありえない。
我は鳳凰と言うなの不死鳥に守られているのだからな。殺されるどころか死ぬことさえ決してありえない。
「我を殺す? いいだろう。殺せるものならやってみろ」
我は男の前に両手を伸ばして受け入れの姿勢を作った。さぁ、来るがいい! どんな武器も使って良い。我を殺してみせよ。
「てめえ! マジで頭おかしいんじゃねぇの? 頭が痛ぇっつってるのに、大人しく静かにできねぇのかよぉ!」
男は我に向かって勢いよく拳を振りおろしてきた。呆れた。武器も使わず我に立ち向かうとはなんと愚かな。
我は男が降りおろしてくる拳をよく見て一切避けることなく、真正面から受け止めた。
そして男の拳は我が顔面に減り込み、我は勢いよく鼻から鮮血を吹き散らす。
「ぐぼぉあっ……!?」
「は? んだこいつ弱っ……本当に勇者なのか? それじゃあ、ぶっ殺してやるよ!」
そんな馬鹿な……。そうか分かったぞ。我は心に思うだけで声が届かなかっただけだ。
ならば声を上げよう。我を守れと。
「我が鳳凰よ! 我をかの者から保護せよ!!」
すると迫り来る男の拳は我の顔面手前でピタリと止まった。どうした? まさか怖気づいたか?
どうやら我がオーラに二発目の拳で漸く気が付いたようだな。
「んなっ!? どうなってんだ! 手が動かねえ……!」
「ふっ、やはりお前に我を殺すことなど出来なかったようだな。我は勇者だからな。
だが我は寛容である。お前を許そう。ほんの少しの苦しみでな」
「ひ……! な、なにをする?」
「我の中に眠る二つの光よ。我に一度でも攻撃を許した彼に相応の苦しみを与えよ」
「や、やめ……! ぐ……うわああぁ!」
そう我が口上を述べた瞬間、男は我の前で一瞬苦しみ悶え始めたかと思えば、全身の至る所に小さな傷が作られ、大量の血が全身から噴き出す。
「おいそこ! 何をしてやがるッ!!」
「ん……? 止めよ」
ふと気が付き男の血を止めると、既にギルド内では騒めきが止まらなくなっていた。
他の野次馬は我を嫌な目で見る。少しやりすぎたか。
そしてその人混みの中から、周りより一層に老けた老人とも言えない貫禄のある男が我に向かって叫んできた。
「誰だ貴様は……?」
「あ"ぁん? ワシはここのギルドマスターじゃがなにか文句あるかのぉ?」
ぐ……なんだこのオーラは。此奴は我の鳳凰と龍より更に上位互換の力を宿していると見た。まるでそのオーラからは殺気に似た何かを感じる。
ここは少し下手に出た方が身のためのようだ。
「済まない。この者が突然我を殴って来たからついやりすぎてしまった」
「んなこと知っとるわい! ここはワシのギルドじゃあ!! 荒らすなら外でやれぃ!!」
「本当にすまない。反省している。我は勇者である。冒険者ギルドに仲間が待っていると聞いてやって来たのだ。
なにも荒らす目的は無かった」
「ゆうしゃあ? あーなんか魔王を倒すとかいう? はーっ……それなら先に言え。
そいつらなら応接室で待たせておるわ。今頃待ちくたびれてあるんじゃないかのぉ?」
「感謝する。今すぐ会いに行ってくる」
我は丁寧にギルドマスターに頭を下げて、ギルド内の応接室へ向かった。
そこには三人の男女が待っていた。男二人に女一人であった。
「お前たちが我。勇者の仲間であるか?」
声を掛けると一人の男が反応する。
赤色の髪に活発そうな顔と表情を持ち、背中には長剣を背負い、しっかりとした革と鉄で作られた防具を身に纏っていた。
名をアレクと名乗った。
「あ、俺はアレクです! この長剣を使った戦いが得意で、戦闘では基本前線に出てガンガン戦います! よろしくお願いします!!」
次に隣に座る女が口を開いた。
アレクより低身長で片手に短い杖と、赤紫色のフード付きのロープを身に纏っていた。
髪は暗い青色のロングストレートで大人しそうな表情を持ちながら、整った顔立ちをしていた。
名をソフィアと名乗った。
「私はソフィア。よろしく……」
次にアレクとソフィアより体が大きい大柄の男がこちらに目を向ける。
髪は黒のショートヘアーで顔は最も老け、年長そうな雰囲気を出しながら、背中には大剣を背負い、全身に重装の白銀の鎧を身に纏っていた。
名をローベルトと名乗った。
「俺はローベルトだ。俺はこの大剣を使うがアレクの前線と違って支援も可能だ。
俺の戦術もいいが、守りも任せろ」
おぉ、三人ともなんと頼もしそうな役割を持つ者たちだ。ソフィア関しては分からぬが、きっと回復担当だろう。
さて、我も名乗らなくては。一気に彼らの信用を勝ち取るのだ。
「ならば我も名乗ろう。我が名は
勇者にして、汝らの王である!
だが案ずるな、我が力は汝らも保護する力も備えているからな。我を守ることだけでなく、その力を存分に振るうと良い!」
至高にして最高の口上。我がこの言葉に聞き惚れぬ者などいない。
さあ我を讃え、これより始まる魔王討伐の旅に向かって声を上げよ!
勝利は我の存在で既に確定している!
ローベルトがアレクとソフィアの方を向いて声を上げた。
「本当に大丈夫かコイツ……?」
「ははは……元気があっていいんじゃない?」
「私はどうでもいい……」
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