二ノ噺 勇者爆誕

「神よ、我らの元に世を救いし勇ましき者を此処に召か……え!?」


「此処が異界か。ん? まさか貴様らが我を呼んだのか? ならば安心するが良い。我は神より召喚されし、勇者である!

 この世界の魔王を討ち倒すべく此処に参った!」


「お……おぉ……」


 我が目に次に映るは、足元に怪しげな魔法陣と純白のロングローブを着込んだ集団が我を囲んでいた。

 これ即ち我は召喚の儀であることを即座に理解した。


 ならばこれより。この時より我はこの世の勇者になっということである。

 であればやることは一つ。この世に危機を及ぼす魔の王を、我が打ち倒さねばならない。

 それが我に神が与えた試練であろう。


「えー……それでは勇者様、話は国王様が王宮でお待ちしております。

 こちらへどうぞ……」


「うむ!」


 そうして我はロープの者たちに王宮まで案内される。

 さすれば我が目に入るは、豪華絢爛な装飾と黄金が差し込む。

 なんと王宮の名に相応しきことか。これほどの高級な調度品を揃え此処に住む王は、さぞかし物の価値が分かる者なのだろう。


 それから我は王の間まで来ると、周囲には重装の白銀の鎧を身に纏った騎士が多く並び、我が足元には真っ直ぐに奥の玉座まで真紅の赤絨毯が伸びていた。

 そしてその玉座に座り、我を見下ろす者は正しく王であろう。


「お主勇者か! よくぞ参った。我がグラン王国へ! 話によると既に目的は分かっているようだな。話は早ければ良い。我が王国、いや世界を魔王の手から救ってくれ!」


「良かろう! 必ずや神に誓ってこの世界を救おう! 魔王を討つことなど我には造作も無いことよ!」


「おぉ、なんと頼もしい……。ならば行け勇者よ! 魔王を打ち倒し、世界に蔓延する闇を打ち払い、世界に光を取り戻せ!」


 ついに我の歴史が此処に刻まれる。

 これはその歴史の一遍に過ぎぬが、世界を魔の手から救って見せよう。


「分かった! さして、我が下に就く仲間がいると聞いた。彼らは何処に?」


「おぉ、その話も既に聞いておるか。それは冒険者ギルドにて待機しているだろう。

 ギルドに着いたら良くギルドの話を聞くのだ。お主は勇者といえど、全ての権限を持つ訳では無い。

 わしはお主のことを特に信じるが、国民はそうは行かぬのだ。

 慢心はするなよ?」


「そんなことわかっている。己の力を過信し、慢心する者の未来には、己の身を自ら滅ぼす道しか無い。

 そんなこと、我は決してせぬ。我が身に宿りし力はまだ真の覚醒には至っていないのだからな」


 そう力の真の覚醒。

 我の身体には鳳凰と龍が宿っているのは確かな事実。

 しかし、我はまだその力の具現を見たことが無い。それも、召喚前にいたあの塔から身を投げた時、我は"飛べなかった"のだから。


 だが覚醒の予兆は知っている。

 それはあの時、塔から降りて我が身体が大地とぶつかった時、我は確かに見た。


 鳳凰フェニックスドラゴンが我が上空を二つの光で旋回する様を。

 あれは恐らく我が力を覚醒する予兆であり、二つの眠りが目覚めるそれなのだろう。


「ならば良い。では次は冒険者ギルドへ行くと良い! それから道は、お主が自ずと分かるだろう」


「分かった!」

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