第3話 オレ

オレは(もしかして…。)と思い、ゆっくりと目を閉じた。


そこには。オレの視界には。プールが広がっていた。


(おかしい!しっかりと目を閉じているはずなのに!なんでこんなにはっきりと見えるんだ!なんで!)


目の前の光景に驚き、少しパニックになった。

そして、Bの言葉が頭を過ぎった。


「そこに居る!『オレ』が居る!」


オレはプールの端。Bが指を差した場所を恐る恐る見た。

そこにオレは居なかった。

その代わり、貞子のような人が立っていた。

髪は黒髪で長く、顔が隠れるように前に垂れ下がっていた。そして白い服を着て、まさしく貞子。というような人が。

正確に言うと、貞子では無いという違和感のようなものはあったので、ソレと呼ぶことにする。

とにかく、ソレが居たのだ。


(なんで!?オレは何も打っていないのに!なんでだ!?)


オレは混乱と恐怖で立ち尽くしてしまった。

そして、なんとか力を振り絞って出した言葉が…



「来る。」



だった。




ソレはオレの方へゆっくりと近寄って来ていたのだ。

すり足のように静かに。ゆっくりと。

一歩。また一歩。


オレのところまであと1m程の距離まできた。

きっと時間にすると1分と経っていなかった。

だけどオレの体感では10分20分と経っている感覚があった。

それ程の緊張感だった。


ソレはゆっくりと歩き続け、オレのすぐそばまでやってきた。

手を伸ばせば届きそうな距離だった。


(やめろ。やめてくれ。何をされるのかわからないが、オレは何もしていないじゃないか。なんでオレの前に現れるんだ。)


頭の中でそう唱えていた。


Bに起こったことを考えると一段と恐怖が襲ってきた。

怖い。オレは何をされるんだ。

どうやって引き裂かれる。どうやって切り刻まれる。

怖い。怖い。怖い。


恐怖に押し潰されそうになるオレ。

だが、ソレはすり足のように歩き続け、オレとすれ違った。

そしてオレの背後で止まった。

緊張か、恐怖か、はたまた謎の力なのか。

オレは金縛りにあったかのように、体を動かすことが全くできなかった。

何も起こらないことを祈るしかなかった。


スー…。

っと、布が擦れるような音が聞こえる。

背後なので姿は見えないはずだが、情景がはっきりと浮かび上がってきた。

ソレはオレに向かって腕を伸ばしている。


(やめろ。やめてくれ。)


そう願うオレの首筋から肩のあたりを、ソレは手のひらで触れた。

そして、そのまま優しい力でそっと押した。

体が少しだけ前のめりになる程度の力だった。


(え…。)


想像していた事と起こった事のギャップに戸惑っていると、自然に瞼が開いた。

肩のあたりには少し温かさを感じる気がした。


目の前にはプールが広がっていた。

そこにソレの姿は無く、オレを心配そうに見つめるA、B、Cの3人だけが居た。

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