第2話 幸せな日々






 そんなあるわけがないけどそんな言い方をされると僕にも少しだけチャンスがあるのかなと思ってしまうのは僕の自惚れなんだろうか……。


「さ、散歩? でも夜は表に出るなって父上に……」


「兄さん! 父上がこの部屋に来たら僕たちが上手くごまかしておくから行って来なよ!」


「で、でも……」


「いいから、いいから! ほら! アリスさんが待ってるよ!」


「後でどうなったか聞かせてね! 兄さん(ボソッ)」


 言いつけを破って外に出るかどうか迷っているとバリスがからかってきた……バリスは僕がアリスに好意を抱いているのを知ってるのか!?誰にも言っていないはずなのに!。


「バ、バリスッ……! お前なんで……!」


「だって兄さん分かりやすいし……それよりほら! アリスさんの体が冷えちゃうよ! 」


「アリスさん! ちょっと待ってね! 今、兄さん支度してるから!」


 バリスは僕の話を聞かずに外出用のマントをタンスから取り出し僕に押し付けて着替えを促してきた……。


「バリスッ、後で覚えてろよ……」


「怖い怖い、兄さんいってらっしゃい! 頑張ってね!(ボソ)僕もグエルも応援してるよ! な! グエル!」


「……いってらっしゃい兄貴……」


「分かったよ! じゃあ行ってくるから父上がきたら頼むぞ」


「うん!」


「ア、アリスお待たせ……! 待たせちゃってゴメン……寒いからコレ羽織った方がいいよ」


 窓から外に出て待たせてしまったアリスに謝罪し僕のマントを差し出すとアリスは微笑みながら返事を返してくれた。


「フフッ、ありがとう! じゃ行こっか?  村の湖まで行ってお話しよう?」


 心臓がドクドクと高鳴った……少し大人っぽく微笑んだ彼女があまりにも綺麗で……僕の顔は今真っ赤になってしまってるだろう。


 そして僕たちは歩き出した……村の外れにある湖に向かって僕より小さい彼女の歩幅に合わせ今日あったことを話しながら歩みを進めていった。


「それでお父さんが怒っちゃってさ! もう大変だったよ……」


「そっか、それは大変だったね……」


 他愛ない話をしながら大好きな人と歩く……単純かもしれないがここまで嬉しいことはない、でも、もうすぐ湖だこの幸せな時間もあと少しで終わってしまう。


「着いたね……いきなりだけどさ私ね? 実は好きな人がいるんだ……」


 今まであんなに幸せだった気分がその一言で崩れ去ってしまったのを感じた、そうだよな村長の娘で美人なこの村の誰もが彼女を自分の物にしたいと思うだろう。


 そんな彼女が好意を寄せる人物とは誰だろうか……分かってはいた、いつか幼馴染という関係がなくなってしまう日が来ると、分かってはいても彼女が恋慕する人物に対して黒い感情が這い上がってくる。


「……どんな人なの? 村の外の人?」


 内心嫉妬で狂いそうになりながらも冷静に彼女に問いかけると彼女は先程とは違う笑顔で笑い顔を赤らめながら口を動かし始めた、僕は息をのみながら彼女の口から出る人物像を想像する。


「その人はね? 努力家で優しんだけど鈍感でちょっと抜けてて、あととっても強いの!」


「どれくらい強いの?」


「うーん……キングオーガを一人で倒せちゃうぐらいかな……」


 それなら僕にも出来ると思ってしまった、本当は彼女のことを応援しなくちゃいけないのに僕は……最低だ。


「ねぇ? 本当に誰だか分からないの?」


「君の家の近くに住んでるアレク……? 彼なら君にピッタリだよ! 優しいし強いし顔も……」


ーーギュッ


「……っえ? ア、アリス? 急に何を……」


 ど、どういうことだ!? ア、アリスが僕に抱き着いて……! あったかいし、いい匂いもして何より安心する……けど、一体どうして……?。


「本当に分かってなかったんだ、ミカエルだよ? 私の好きな人」


「へっ?」


「だから好きな人、ミカエルだよ?」


「えっ、いや……えっと、からかってる? よね?」


「ううん、本気だよ」


「今日はミカエルに告白しようと思って呼んだんだよ?」


 これが嘘ではないと自覚した瞬間カァァと頭に熱が集まり思考が止まってしまった。


へ、返事をしないと……! 


「じ、実はぼ、僕も君のこと……」


 僕たちは今日、初めて思いが通じ合った。


 こんな幸せな事があっていいのだろうか……僕の人生の中で一番幸せな瞬間が今だと自信を持って言える。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「じゃあそろそろ帰ろうか? 私も夜中に男の子と密会してるなんて事がバレたら怒られちゃうし」


「う、うん」


「もう月が傾き始めてるし早く帰ったほうがいいね……」


「ミカエル! マントありがとうね? また明日村の中を散歩しよう?」


「じゃあね! ”楽しかったよ”?」


 アリスは楽しそうに別れの挨拶をして早々に自分の家の方向に走り去ってしまった、僕も早く帰らないと……!


「ハァ……ハァ……急いで走ってきたから疲れたな、バリスたちはもう寝てるよな……」


 窓を開けて家の中に入るとバリスたちは寝息をたて深い眠りについてる……やっぱり少しだけ長く出過ぎたかな……。


「僕も寝よう……おやすみ……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「お前たち! いつまで寝ているつもりだ? そろそろ鑑定士の方がいらっしゃる! 今回を逃したら次は何年後か分からないぞ!」


「はっ! おはようございます! 父上! 今すぐに支度をいたします!」


「うーん……おはようございます……」


「……ん、おはようございます……」


 父上の掛け声に反射的に飛び起き挨拶を返すと、その大声でバリスたちも目を覚ましたらしい……こんな大声を出さないと起きないなんて肝が据わってるな二人とも……。


「バリス! グエル! お前たちも寝ぼけてないで顔を洗ってこい!」


「は、はい!」


「分かりました……」


 僕たちは大急ぎで支度をし鑑定士さんの元へと向かった。

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