第12話 お姉様が来た

閉ざされた薄暗い部屋の中で、セラもロッタもまだその騒ぎには気付いていなかった。


しかし、


「お姉様、お姉様、助けて、助けて……」


「しつこいわね!

いくら呼んだってお姉様なんか来ないわよ!

それともそのお姉様も一緒に可愛かわいがって欲しいのかしら!?」


苛々いらいらとしたロッタの怒鳴り声が響き渡ると同時に、


「ほぅ、私を可愛がってくれるのか?

それは楽しみだ。

こういう趣味は、私も嫌いでは無いぞ」


厚い扉が吹き飛ぶように開け放たれ、女の声と共に重たげな何かが部屋の中に投げられ転がった。


「な……何!?

あ……お、お父様……!?」


土埃つちぼこりに目を伏せたロッタの足元には、全身を真っ黒に染め、ちたように四肢ししのもげかけたネシュトスの肉体があった。


ロッタの絶叫が響き渡る中、そのロッタの姿に、女は「なるほど」とうなずく。


指に黒薔薇の指輪をにぶく輝かせたロッタは、ひどくせ細りあばらを浮き出させ、髪や爪は伸び放題に乱れ、焦点の合わぬ目はしかしながらぎらぎらと熱く鋭く、全身からは光る液体がとめどなく流れ落ちては揮発きはつして消えていた。


「どうやらその指輪には私の魔力が反転して流れ込んでしまっていたようだな、凡ミスだ」


つぶやく女の声に、


「お姉……様……?」


背中の皮膚に直接フックをかけられ天井から吊るされ、全身に血のにじんだぼろ布の包帯を荒く巻かれたセラが、つぶれた両目を向けた。



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