第13話 魔女

「ロ……ッタ」


「お父様!?」


「なんだ、まだ息があるのか、さすがだな」


しかばねのような姿のネシュトスが、かろうじて口だけを動かして娘に語りかけていた。


「逃げろ……もうどうにもならぬ……。

五年前、追い詰めながらも倒し切れなかった魔女に、私は封印の法術をかけた……。

魔女は、人の苦しみをかてとするもの……。

ならばと、人を苦しめる度に魔女の身に神罰の傷が生じるような法術を……。

人を苦しめれば魔力が高まる、しかし同時にその身を滅ぼす……。

このジレンマで魔女はしばらく大人しくなったはずだった……。

その上で、そもそも人と接することなどできぬよう、街全体に結界を張り侵入を防いでいたというのに、なぜ……」


「それはね、ネシュトス」


女がネシュトスに歩み寄り首をみ潰す。


そのかたわらに呆然と立ちすくむロッタの手を後ろにひねり上げ、指ごと指輪をむしり取った。


「この指輪と、娘さんの熱心な孝行のおかげさ。

おかげでひどく体はいたんだけど、それ以上に魔力が高まりこの通りの復活というわけだ。

可愛いセラのいたずらでは何年かかったことかな。

なぁ?

私の愛しい妹と、随分と仲良くしてくれたようだねぇ、お嬢ちゃん」


泣き叫ぶロッタの腕を握り締める女の髪が、蛇のようにうごめき、ロッタの全身へと伸びて絡み付き、白い肌を突き破り侵入して行く。


「体中に特製の魔法陣を埋め込んでおいてあげよう。

死ぬこともできぬまま永劫えいごうに苦しむといい、ありがとう」


言い終わるやいなや、軽々と放り投げられたロッタは、開け放たれた扉から一直線にリビングと寝室を突き抜けて、窓を破り戸外へと消えた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る