第13話

13

ゆっくりとこちらに向かって歩いてきたフレデリックに、自分の元に来ていると信じて疑わないモニカはセシリアに向かって小さく得意気な顔で笑うと、真っ直ぐフレデリックを見つめる。


会場中の視線が集まる中、フレデリックはうっとりするような笑顔を浮かべると、優雅な動作で手

を差し出した――――――セシリアに。

笑顔のまま固まったモニカには目もくれず、セシリアに話しかける。



「遅くなってごめんね、セシル。陛下に紹介しよう。……一緒に来てくれる?」

「――うん。」


差し出された手を取り、歩き出す。すると、数歩も行かないうちに、セシリアは唐突に我に返ったモニカに力いっぱい肩を掴まれた。そのまま至近距離で喚き散らす。



「ちょっと、どういう事よ!?なんであんたが……」

「……手を離せ。」


ドスの効いた声にモニカが顔を上げると、凍てつく様な表情をしたフレデリックの瞳が彼女を貫いた。

思わず肩から手を離し、一瞬たじろぐも、モニカはすぐに勢いを取り戻す。


「どうしてそんな顔をされるのです!?私に微笑みかけて下さったではないですか!」

「……微笑む?何の事だ。」

「……っ、それに、これを覚えておりませんか!?つい先日、私達は運命的な出会いを……。」

「何の事だかさっぱり分からないな。それに運命?冗談も大概にしろ。私の運命はセシルただ一人だ。」


先日フレデリックに差し出されたハンカチを見せるも、尚も冷たい彼の物言いに、モニカは信じられないものを見るような表情で凍りつく。



「話は終わりか?……さぁセシル、行こうか。」


モニカに向けたものとは一転して優しい声色でセシリアを促す。彼女の腰に手を回して歩き出したフレデリックの腕をモニカは突然掴み、更に言い募る。



「どうして……!私が美しいとは思いませんか!?そんな女よりずっとずっと……」


しかし、モニカは最後まで言い切る事が出来なかった。人を殺しかねない程の迫力のある表情でフレデリックが凄んで見せたためだ。



「……今、私の妻を侮辱したのか。それから、お前は今、誰の腕を掴んでいる?私はお前にそんな事を許可した覚えはない。」


温度を感じさせない淡々とした口調でフレデリックが話す。彼の表情と纏う空気から、それが逆に相手の恐怖心を煽っていく。


自分にフレデリックが靡くことがないと気付いたのか。それともセシリアに負けるのが悔しかったのか。今まで自分の思い通りに落とせなかった男がいなかった為かとうとうモニカは逆上してフレデリックに掴み掛からんばかりの勢いで喚き出した。

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