第12話

パーティーは中盤に差し掛かり、モニカは目当ての男性が見当たらない事に焦りを覚え始めていた。

これではせっかくドレスを新調して気合い十分にこの夜会に望んだ意味が無い。

必死の形相でパーティー会場を練り歩くモニカに、付き合うのが疲れたセシリアは手近なケーキを一つ手に取ると壁際に寄って食べ始めた。

どこか遠巻きにされている感は否めないものの、特に気にすることも無く目の前の物に没頭することに決める。

簡単に移動出来る立食形式で助かったなぁなんて考えていると、興奮気味なモニカがはしたなくならない位のギリギリの速度で、ドレスの裾を翻しながらこちらに向かってきた。



「ちょっと、セシル!この間話した方がいらっしゃったわ!やっぱり今日来て良かったぁ!あ、彼に好きになって貰うんだから、私のそばにいてよ?あんたみたいな地味顔といた方が私の美しさが際立つでしょ?」


モニカの声量を抑えながらも興奮が隠し切れていない言葉を聞き、ホールの入口付近に目を向けると、やはりというかなんというか、セシリアが懸念した通り、そこにはフレデリックが居た。

彼は、セシリアのドレスに使われた黒と同じ色のシャツに、濃い赤のタイ。彼女の瞳を連想させるような黒に近い茶色のスラックス。ジャケットには彼女とお揃いのブローチが付けられている。

一見派手な色だが、良く似合っている。

何もしなくても目立つのだが、周囲が勝手に彼を避けて道が出来るので彼を見つけるのは至極簡単な事だった。

興奮するモニカを前に、なんとも言えない顔でフレデリックの方を向くと。


…………ウインクした?


丁度モニカには見えない位置でセシリアに向かって満面の笑顔を向ける。その後は何事も無かったかのような涼しい顔をして王族の座る貴賓席へと向かって行った。主催者である国王へ挨拶に向かったのだろう。普通は夫婦揃って挨拶に向かうのだが、先程の彼の様子を見るに、何か考えがあるのだろう。


仕事柄、王子達に剣術の稽古を付けることもあるらしく、国王一家と親しげに話している。話に一段落ついたのか、一言二言こちらを見ながら話した後、爽やかな笑顔を浮かべたままこちらに向かって歩いてきた。



「私に向かって微笑んでるわ!やっぱり覚えてたのね!もしかしてもう陛下に紹介して下さるのかしら!」


すっかりその気になっているモニカには彼の左手薬指に光る指輪は目に入らないようだった。

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