第14話

「何よ、あんたなんか!許可してないですって?あんたこそ誰に物言ってるのよ!?私はロッセリーニ子爵の娘なのよ!!!」


確かにモニカの実家であるロッセリーニ子爵家は裕福で由緒正しい家だ。しかし、それでもあくまで彼女は子爵令嬢。辺境伯と辺境伯夫人より身分が高いなど逆立ちしても有り得ない。

しかし、セシリアが自分より身分が高いなど有り得ないと信じて疑わないモニカは、自分のした発言の重大さに気付く事が出来ない。


周りで様子を見守るばかりの人々はフレデリックの様子に戦々恐々とするばかりだ。ただひたすら彼の怒りが他の者に向かない事を祈る事しかできない。



「……誰に物を言っている、だと?……お前こそ誰に向かってそんな発言をしている。……それから先程から聞いていれば妻への侮辱の数々。愛称で呼んでいたようだが本当にお前は彼女の友人なのか?」


愛称で呼ぶ事を許されるのは、基本的に家族、婚約者、恋人、そして限られた親しい友人のみだ。

勿論セシリアはモニカに愛称で呼ぶ事など許可した事は無い。初対面で勝手に呼び出したのだから。

それが誰もセシリアをモニカから救い出してくれなかった原因でもあった。モニカごいくら酷い事を言ったとしても、傍から見れば愛称で呼び合う程の仲の良い友人のちょっとした戯れ言にしか聞こえないのだ。被害者であるセシリアに確認しようにもモニカがべったりとくっついていた為それすら誰も叶わなかった。



「誰に向かって……?知らないわよそんなの。でもその女の嫁ぎ先だもの、どうせ大した家じゃ無いんでしょ。」


フレデリックに好かれる事を諦め、開き直ったモニカは最早言いたい放題だ。フレデリックが爵位を継いだのは丁度モニカが留学中の事だったのだ。それまであまり表に出る事が無かったフレデリックの事をモニカは知らなかったのだった。



「大した家じゃ無い……ねぇ。こんな侮辱は初めてだ。…………衛兵、この女を捕らえろ。」


今日の夜会の警備を担当していたのは近衛兵団だった。時々サヴィン辺境伯家の有する騎士団と合同訓練をすることもある彼らの中に、フレデリックの顔を知らない者は一人もいない。


貴族社会では畏怖されるフレデリックであるが、武道を志す者達にとって彼は憧れの存在であった。

そんな彼からの指示だ。

彼らは速やかにモニカを捕らえると喚き続ける彼女の口に猿轡を噛ませ、両手を後ろ手に縛った後壁際へと連行した。彼らは本音ではモニカを会場の外に出したかったのだが、そこまでは指示されていない。彼らの出来る精一杯として仕方なく壁際で槍を交差させて構え、彼女が逃げる事を防いだ。

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