第10話
⑩
週末。
王城のホールには美しく着飾った貴族たちが数多く集まっていた。ゆったりとした音楽を背に、互いに挨拶を交わし、他愛ない話をしたり、今年社交界デビューしたばかりの娘や息子を披露している者もいる。
セシリアはモニカと共にホールへと入って行った。
参加者が多すぎる為か、エスコート無しに入って来た2人に不快な視線が集まることも無い。
こんなにも大きなパーティーでフレデリックと共に居れない事に不安を覚えるかとも思っていたが、胸元にあるブローチの事を思うと自然と心が軽くなった。
意中の男性を落とさんとするモニカの本日の装いは、背中と胸元が大きく開き、脚に深いスリットの入ったシャンパンゴールドのマーメイドラインドレスだ。ざっくりと開いた胸元には彼女の瞳を思わせる大きな翡翠を用いた大ぶりのネックレスが飾られている。
脚のスリットから覗くゴールドのピンヒールも相まって全体的にセクシーな装いだが、彼女生来の魅力からか不自然と下品には見えない。
自慢の長いプラチナブロンドの髪はサイドをエメラルドのバレッタで留めるだけのシンプルながらもその艶やかさを存分に見せつけるようにセットされている。
対するセシリアは、光の加減で紺にも見える光沢のある深い黒色のプリンセスラインドレスに、所々差し色として赤が使われている。スカート部分の表面に使われた繊細なラメの入った薄い黒のシフォン生地の下からは深い赤色が透けている。
極力シンプルにした胸元にはフレデリックから贈られたブローチが主張する。
彼女の優しい色合いの髪はパールと共に緩く編み込まれて前に流され、こちらもルビーとトパーズをふんだんに使った飾りで留められている。
「あはっ。何、あんた?いつも葬式みたいな地味な格好しかして来ないくせに。気合い入れちゃったの?どうせあんたの家貧乏なんだから無理しなくていいのに。」
普段はあまり華美なドレスを選ばないセシリアを今日も引き立て役に使おうとしていたであろうモニカから嫌味が飛び出す。
確かにセシリアの実家は子爵家のなかでも裕福なモニカの家とは違い、金銭に余裕がある訳ではない。セシリア本人が華美な服装を好まないだけでなく、それもあって結婚前までは地味な服装を選ぶ事が多かったのだ。
しかし、結婚してからはとにかくフレデリックがセシリアを飾り立てたがる。一般的に見てセシリアは可愛らしい顔立ちをしているのだ。ただ、幼い頃からモニカに馬鹿にされ続けてきたセシリアは恐ろしく自己肯定感が低かった。
そこにも不満があったフレデリックの献身のお陰か、ここ最近は改善してきていたのだった。
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