第9話

「え……私……?」

「おうよ。驚かせて悪かったな。急いで作ったからもう出来てるぜ?ちょっと待ってろ。」


突然話を振られたセシリアは困惑するばかりだ。だがきっと、フレデリックが言う『サプライズ』とは何か関係があるのだろう。男が奥に入って行ってからフレデリックが心無しかそわそわして見える。


程なくして、工房の奥から男が戻ってきた。

手には丁度両手に乗る程の大きさの木箱がひとつ。



「どうだ?自信作だぞ。」


そう言う男が箱を開けると、中にはふたつの小さなブローチが入っていた。

ひとつは澄んだ大粒のルビーを真ん中に、周りに幾つものトパーズをあしらったものだ。

もうひとつはルビーより一回り大きなファイヤオパールをベースに、こちらも周りに幾つものトパーズがあしらわれている。

そして、どちらにも等しくブロンズの台座が使われていた。


すっかり夢中になっているセシリアにほっと息をついたフレデリックは生暖かい視線に気が付き、しょっぱい顔をしたまま視線の元へ顔を向けた。



「……なに?」

「いや〜、あの女っ気のなかったフレディに嫁さんかぁ〜、分かんねぇもんだなぁ〜。にしても嫁さん可愛いなぁ〜……」

「……セシルはやらんぞ」

「なんつぅ勘違いを!俺にも愛する妻がいるんだ、つまらん冗談は良してくれ!」


男はフレデリックが学生時代に知り合った者だ。

在学中から今に至るまでよく装飾品から武器まで様々な物を依頼している。

彼は物凄く腕のいい職人だったのだ。

昔からのノリで気安く話していると、セシリアがぱっと2人の方に向き直った。



「ねぇフレディ、これは?」

「ん、今度の夜会にと思って。色違いでお揃いなんだ、気に入った?」

「えぇとっても!これは……小さい方が私の?フレディの目の色かしら?」

「うん、そうだよ。僕の方はセシルの髪の色だ。……さっきはなんか不安そうだったけど、誤解は解けたかな?」


やっぱり気にさせてしまっていた。

落ち込みかけたセシリアにフレデリックは努めて明るく声をかける。



「これ、夜会にお揃いでつけて行こうね?」

「……うん。楽しみ!」


憂鬱だった週末の夜会が途端に楽しみになったセシリアだった。

この人ならモニカが例え何をしようとも大丈夫だろう。

そんな安心感を感じられた。



「……うへぇ……。独占欲強ぇなぁ……。」


小さな声で男がひとりごちる。

その声は傾きかけた日に吸い込まれて、誰の耳に届くことも無かった。

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