第8話

自分の目とと同じ位の明るさの綺麗な茶髪に、印象的な赤い目。昨日の興奮気味に語るモニカの姿が思い出される。

まさか彼女が好きになってしまったのは自分の夫の事だったのだろうか?

たが、そう考えても不自然な点は無い。

贔屓目無しに見ても一見してフレデリックは整った顔立ちに柔らかな物腰をしている。

家門を理由に敬遠されがちだと聞いているが、一目惚れするには文句無しに納得できてしまう。

まさか彼に限って浮気をするという事は考えられないとは思うが、昨日見たモニカの本気度に恐ろしさを感じてしまう。



「一昨日?どうしたの、急に?……うん。外出したよ。気になるならこの後一緒に行こうか。」

「……いいの?」

「ほんとはサプライズのつもりだったんだけどね。……何があったのかは分からないけど、愛する妻にそんな 不安そうな顔させとく訳にはいかないからね?」

「……っ!も〜!」


芝居がかった仕草と台詞にウインクを添えてそう言うフレデリックに、途端に羞恥心が増す。そんな仕草も様になるなぁなんて考えていると自分の考えていた事が馬鹿馬鹿しく思えて来た。

サプライズと言っていたか。一体何だろう?と意識はそちらに持っていかれてしまったのだった。




カフェを出た後、フレデリックに連れられて辿り着いたのは、ある工房だった。『closed』と書かれた看板がドアの外に立てかけられていたのだが、フレデリックはそれを一瞥すると、特に気にした様子も無くドアの取っ手に手を掛けた。

大丈夫なのだろうかと思っていると、扉を開けた彼に中に入るようにと促された。ほんの一瞬の逡巡の後、セシリアは工房内へと足を踏み入れた。

中は物が乱雑に置かれていて少し暗く、熱気が篭っていて居心地がいいと言えるような場所ではなかった。人は見当たらない。外出中なのだろうか。そんな事を考えていたのだが、



「『closed』の文字が読めねぇのか!今俺は忙しいんだ!帰った帰った……お?なんだよフレディじゃねぇか!」


工房に入るなり怒鳴りつけられて固まってしまったセシリアだったが、フレデリックを見た途端に機嫌が良くなり笑いだした男に呆気に取られるばかりだ。フレデリックが用事があったのはこの男にだったのだろうか?



「ってーと、お前さんが言ってたのはそこにいるお嬢ちゃんか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る