第6話

苦笑しながらも目の前のスイーツに意識を戻そうとした時、じぃ……っと見つめられる視線に気が付いた。



「な……なんですか?」

「……セシルちゃんの目ってさ、美味しそうな色してるよね……チョコレートブラウン?よく見たら髪も美味しそう……ミルクティーブロンドだ……。」


突然始まったフレデリックの話。なんと言うか……不思議な人だ。しかも、意識の大半をスイーツに向けているからなのかどこかぽーっとした顔をしている。これが本当にマスターの言うようなビシッとした人なんだろうか……?



「それなら……フレディさんの髪もチョコレートブラウンじゃないですか……?あ、いや、珈琲の方が近い……?目は……苺?いや林檎……あ、レッドベルベット!」


考え出すと案外楽しく、セシリアは割と真面目に考えてしまった。



「……何ですか?」


ふと顔をあげるとぽかんとした顔のフレデリックがいた。思わずワントーン低い声を出してしまう。

と、フレデリックはみるみるうちに顔が赤くなっていき、思わず、といった体で吹き出してしまった。



「いや……ふふっ……レッドベルベットか……初めて言われたなぁ……。」

「知りませんよそんなの。私だってチョコレートブラウンなんて初めて言われました。」


でも、小さい頃からずっとモニカに汚い色、平凡な色と貶されてきた自分の色が美味しそうという理由とはいえ、褒められたのは悪い気はしない。

どことなく嬉しさと気恥しさが混ざり、とりあえず残っていたスイーツに没頭する事にした。


セシリアが食べ終わる頃、何となく隣を確認すると、フレデリックの前のスイーツ達はまだ食べているとはいえ、残り少なくなっていた。

食べる速さに驚きつつ、マスターに声をかける。



「ご馳走様でした。お会計……」

「いいよいいよ、僕が払うから。」


途中でフレデリックに遮られた。

なんでもないふうに言っているが、爆食いした自分の会計はきっととんでもない事になっている。流石に払わせる訳にはいかない。



「そう言う訳には……。絶対今日お会計大変な事になってますし……。」

「大丈夫大丈夫。僕仕事してるし。王都に来る時以外あんまりお金使う機会も無いしね。」

「でも……。」

「いいんだよ、久しぶりに楽しかったから。……じゃあ明日もまたこの時間に来てくれる?それでチャラって事で!」


チャラな訳がない。無いが、これ以上断るのも失礼にあたってしまう。セシリアは素直に好意に甘える事にした。



「じゃぁ、ご馳走になります。また明日きますね。」

「うんうん。またね~」


一礼してセシリアが出ていった扉を見つめていたフレデリックの瞳がすうっと細められていった。

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