第13話
ベットの上で上半身を起こしたコウに足を絡ませ抱き着きコウの肩に頭を預ける。
「アサヒ…」
「うん」
「俺…ずっとアサヒに会いたかった」
「うん…」
「アサヒに会いたくて会いたくてしかたなかった」
「うん」
「そういえば…一回お見舞い来てくれてたよな?」
「あの時なんで帰ったんだ?」
「あの時…にコウ君にフラれたんじゃん…」
「でもきっと何かあったんだよね?それで思ってもないことを勢いで言っちゃったんじゃないの?」
「ん…?あの時…何か言ったっけな…」
「確か考え事してて…あっ!!!」
『アサヒに「こんな関係を続けることはできない、別れてくれ」って…言われちまうよりゃダメージないな。』
「ああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
「うわああああ!!人の耳元でさけぶなぁぁぁ!!どうした!?!?!?!?」
「あ、あの時の…独り言を…運悪く聞いてたのか…」
「独り言?」
「ああ…あれは…アサヒに別れてくれって言われたらどうしようって…内容だったんだ…」
「あれから連絡が取れなくて説明ができなかったんだ…」
「は?」
「じゃあ全部…私の早とちりと現実逃避が招いたことなの?」
「…へへ」
「…苦笑いでごまかさなくてもいいよ…」
「もう…言いたいこと全部言って…あるでしょ?こんなにコウ君を振り回したんだから…今回は…全部私が悪かったから…」
「わかった、大好き。」
「…もぅ」
今日一日、命を狙われ、大泣きして、自分に大激怒して、死ぬほど気持ちいいキスされて、笑って、ほっとして…
なんか疲れちまったな。
でもよかった。
本当に。
疲れ切った二人が仲良く病室のベットで眠りにつく
ベットがとても狭いためいろんなところが痺れていた。
一番は心かもしれないが。
愛する人のためにつらい選択をした日も
愛する人に会いたくて、会えなくて心を痛めた日も
全部丸く収まって仲直りできた日も
平等に明日は訪れる
今日は明日が訪れてほしいと思えた日だ
退院のため荷物を準備していたところアサヒが両親のもとから戻ってきた。
「それにしてもー」
「アサヒのお父さんってさ…なんか不思議な人だな」
「うーん確かに普通じゃないよ」
「それよりも気になったのはアサヒだったりアサヒのお母さんがお父さんの言うことに素直すぎないか?」
「まるで…信じ切ってるように」
「まあ…そうだね、だっておとーさんはすごい先を読むんだよ」
「だからおとーさんがこうした方がいいって言ったらそれが最善の方法なんだ、これはもう揺るがないね」
「へぇ…とても信じれないないな、あの人絶対そこまで考えてないだろ、自分の衝動に従って生きてるだけだって」
「そんなことないよー、きっとなにか考えがあるんだよ」
「まったく…人にナンパしてばっかりいるから奥さんに刺されるんですよ?」
肩を担がれながら看護婦さんに毒づかれる
「ははは…手厳しいな」
「私何度も言ってるじゃないですか―私は」
「おっと、そういえば六階の女子トイレの個室に忘れ物をしちゃったみたいだ、すまないが見てきてくれないか?」
「…なんでそんなとこに落とし物をするんですか…」
「ほらほら、いいから、落とし物がカメラだったらどうする?」
「ったく…なんて奴だ…」
「じゃあ後は先生たちに任せますからね?」
「私…私…あなた…あなた…ブツブツ…」
「…奥さんは旦那さんより重症かもしれませんね。」
ったくなんなんだよ…あの人、私を本気で狙ってるわけでもないのにあんなにいろいろ聞いてきて…
こんな女子トイレにまで来させて…何考えてるのかわかったもんじゃない…これだから野郎は
女子トイレの入り口まで差し掛かったところで嘔吐く声がする
「うぅ…ごえぇ…」
「わ!大丈夫!?」
「死…ぬど」
「大丈夫そうじゃないみたい?」
「背中…さすって…」
「はいはい…」
「ほら…落ち着いて、まだ何も出てないみたいだけど…気持ち悪いの?」
「はい…ちょっと…キツくて…ありがとうございます…」
セーラー服を着た上品そうな女の子だ。
背中まで伸びた艶やかな黒髪がよく似合っている。
「心配してくれてありがとうございます…何とか落ち着いて…」
「それは良かった!大丈夫なの?何かあった?」
「大好きだった子にフラれちゃって…後をつけてみたら私の前で復縁しちゃって…」
「もうあの子しかいない、運命の人だと思っていたのに…」
「まあまあ…あなたかわいいんだからすぐに彼氏ができるって…」
「ゴホッ…彼氏じゃなくて…彼女なんですよ…女の子が好きで…」
「え?」
「そりゃそうなりますよね、女なのに女の子が好きだなんて、気持ち悪いですよね」
「そんな私だから…もうあんなチャンスはないと思ってたのに…」
「信じられないかもしれないけど…私も女の子が…好き…」
「え…?」
二人見つめ合う
「お、お名前は…」
「み、水谷…あなたは?」
「和泉です…」
「その…このあとお茶しない?」
「ぜ、ぜひ…!」
二人の歯車が動き出した。
「私が…傷つけた…私が…傷つけた」
「こんなに好きなのに…こんなに好きなのに…」
うつろな目をして夫に付き歩き回る。
傷は浅かったものの今までの体力の消耗も重なり入院期間が延びてしまった。
妻が転んだ拍子に刺さってしまったことにし、何とか大事にはならなかったことは幸いとするべきか。
それからというものどこに行くにも、こうしてトイレの中にまでついてくる。さすがに個室の中に入ってきた時にはまいった。
「なあ」
「は、はい…」
「今頃考えられる中で一番のハッピーエンドに収まってるぞ」
「え?」
「…まさか…全部想定の範囲内なの?」
「(おめーが本当に刺すとは流石に思わなかったがそれ言ったらめんどくさいしそういうことにしよ)あったり前だろ!一人残らず円満解決じゃボケ!」
「あ、あなた!!」
「だから…もう気にすんなよ?見てられないからよ」
「今更刺された程度で嫌いになるような付き合いじゃないだろうが…これで嫌いになってたらとっくに縁切ってるっつーの」
「学生の時の足とパイプを手錠でつながれた時よりもずっとマシだ」
「あんときは流石に別れて逃げようかと思ったな」
「あ、あれは…その…不安になって…」
「あの時はただ俺にかかった不幸だったが今回は名誉の負傷だ、幾分もマシだし誇れることなんだから」
「つまり…?」
「つまり…その…」
「『あの言葉』聞きたいの…ごめんね…こんなに迷惑かけたのに欲しがっちゃって…」
「…」
「…だめ?」
「ああ…クソ…」
包帯でぐるぐる巻きにされた腕をかばうように彼女の頭を抱きしめる。
「はぁ…『あいしてる』これでいいか?」
ニマッーーーー!!!!!!
「私もだいすき!!!だいすき!!!ああああああああああああ!!!!」
「はぁぁぁ…しゅきしゅき!大しゅき!!クンカクンカ!!クンカクンカ!!すぅーすぅーすぅーハァハァハァ!!スーハースーハースーハー…」
「もう…がまんできない!!!がむっ!!!んぐぅ…!!」
けが人であるはずの彼の肩を噛み千切らんとするかのようにとびかかる。
「んじゅ…!!がるぅぅ…!!!がぅぅぅ!!!!」
「…っつぅクッソ…いてぇ…」
「入院してるはずなのになんでダメージ入んだよ…また歯形まみれになる…いっってぇ…血でてきたし…」
「んじゅうるるるじゅうじゅつつつ…あああああああああああああああ!!!!!おいしい!!ねぇ!!私の血も飲んで!!!!」
「合わせて!混ぜて!同化させて!二人の垣根をなくして!私もあなたに!!!あなたを私にして!!!!」
「…」
「こんなにつれぇのに…俺もこいつが好きで仕方ないんだな…」
「…倫理観にかけるが…ベット行こうぜ…こんなとこで始めたら誰に見られるか…まあそれはどこも同じか」
「はぁ…はぁ…しゅき♡」
「…ごくり」
「今日は二発だけだぞ!いいな!?もともとそれで入院してんだからな!」
「えへへ…はーい♡」
「それと…これからのことについて話したいことがあんだよ、これは報告じゃなくて相談だ」
「うんー?珍しいねーあなたが決められないことがあるなんて」
「俺だけの問題じゃない、アサヒの性別にかかわるからな」
トイレの入り口にふらついて手をついたときに血痕を残し半分運ばれる形で彼はベットに戻った。
彼女はそれを見逃さず自分の口周りに付いた血をぬぐい指でハート型に形を整え
「ふふん♪」と満足げに鼻を鳴らし肩を担いだ。
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