第14話

「お…邪魔しまーす」

「はーい!段差気を付けてね!今転んじゃったら大変だからね!」

松葉杖を片手にアサヒの肩を借りて家に入る。

「このドアから出たことはあっても入った記憶はないな、前来たときは意識を失わされて搬入されたからな」

「もー!言い方やめてよね!別に拉致したわけじゃないんだし、むしろ褒められるべきでしょ?助けてあげたんだからさ!」

「そうだな、悪い悪い」

「もう!拉致はまだしてないでしょ!それにいつも無防備にえっちなフェロモン蒔き散らして寝てるほうが悪いんだよ!」

「た、たぶんそれ悪いことだと思ってないよな?当然の権利だと思ってるよな?ほんとは駄目だからな?違法だからな?イリーガル、分かる?」

「?」

「あぁー…ダメだこりゃ、どんな教育受けてきたんだ、まああの親からは当然と言ったら当然だ」

「コウ君も大概倫理観ゼロ男だけどね」

「親で思い出したけど、アサヒの父さん大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃないよ、おとーさんあれからまたおかーさんに死の淵まで搾り取られて一か月入院期間伸びたよ」

「へー、あの両親やっぱアホなんだ」

「だからこれからずーーーっと同棲できるってこと!」

「わざわざ同棲に言い換えやがって…でも迷惑じゃないか?そんないきなり押し入って」

「気にしないでよー迷惑なんかじゃないよ、むしろすっごくうれしい!、看病しながらいっぱいイチャイチャしようねー!」

「アサヒに迷惑をかけた、なんて一切考えてないけどな」

「えーー!なんでだよー!私のことも気にしてよー!」

「いやいや…食費も出してもらってるわけだしな?」

「なーんだそんなことかー」

「全然気にしなくてもいいのにーおかーさんに殺されかけたお詫びだよ!」

「むしろ留守番を頼まれたコウ君に迷惑じゃないか確認しなくちゃいけないくらい」

「二人がいない数か月間家を守らないとね、私みたいなか弱い女の子だけじゃダメだからね」

「まあそりゃ一向にかまわないけどな…」

「…」

「…俺もアサヒにずっと会えてなくて寂しかったし…イチャイチャしたいってのは俺もだし…」

「それに…それに…」

「アサヒとのディープキスがすっごい気持ちよくて幸せだったし…」

「ん?なんか言った?」

「聞かれてなくてよかったよ」

「まあともかく、これから世話になるな」

「もとはと言えば私のせいで利き腕が使えないんだから看病するのは当たり前でしょ?」

「そこの常識はあるのか、どっちの遺伝だ?」

「はいはい、そんな憎まれ口言ってないでこれからの同棲生活に向けていろいろ準備するよー!」

「とりあえず一息ついたらコウ君の家に行って必要なものを取りに行こうよ!」

「ああ、そうだな」

「…」

「なぁ…さっきさ…」

「んぇ?」

「アサヒ…自分の事…お、女の子って…」

「…」

「聞き間違いだったらすまん…」

「聞き間違いなんかじゃないよ」

「コウ君、大事な話今したい?」

「…あぁ」

「そこ、座って」

今後と今までのことを話していたらいつの間にかアサヒの部屋まで来ていたようだ。

促されたままアサヒのベットに軽く横たわる。


「あぁ…座ってって言っただけなのに寝転がっちゃうんだ…コウ君らしいね」

「別に話と関係ないだろ、どうせ内容見えてんだよ」

「そう…だよね、そんなに引っ張るような話でもないよね」

「その…どこから話せばいいか…」


「うーんと…結論から言ったらもう…私は女の子として生きる…の」

「やっと決心してくれたか…よかったよかった、んじゃお話おしまい、どうせそんな変わんないだろ」

「そんなこと…ないもん…お話きいて?これから変わることもあるから…」

「たとえば…ディープキス…なんだけど…」

「いままで男の娘の時…ディープキスできなかったんだ…」

「いつの間にか無意識のうちに心が制限をかけてたのかな…男として尊厳を保つために…だって男らしくないでしょ?そんなキスで愛情を確認するなんて」

「あのキスは私が女の子になる一線だったの、もうそれを超えたの」


「どうしてそんな風に一線を越えたのか…知ってほしいから聞いてて…」


「私…コウ君にフラれたと思ってしばらくいたじゃん?」

「その時に…一人の女の子にあったの」

「その子は女の子同士しか好きになれない子で…」

「コウ君にフラれた直後の私を優しく励ましてくれて」

「それで…それでね?コウ君以外で初めて…私の性別を受け入れたうえでさらに愛してくれて」

「告白…されたんだ」


「でも…まだその時はコウ君の事あきらめられてなかったし立ち直れてなかったんだ」

「それで…コウ君をこれ以上縛らないように、迷惑をかけないように、コウ君の…私の愛した人の人生をこれ以上私が足を引っ張らないように」

「嫌われるってわかってても会って謝りに行こうって思って」

「その時に思ったんだ…嫌われててもコウ君が好きって…」

「女の子より…コウ君が好きって…」

「男として、じゃなく女として、コウ君が…好き」

「自分の気持ちにやっと気付いたんだ、もう…とっくにコウ君に心を女の子として堕とされてるって…」

「だから…もう私は男として生きることをやめた」

「もう私は女…なの…」

「自分の気持ちに正直に生きることにしたの…」

「こんな私だけど…いいよね?コウ君?」


アサヒがコウの顔を窺い目線をやると何か思うことがあるのか苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。


…いままでそんなしょうもない理由でディープキスをしなかったのか?コイツ…さては仕事できねぇな?

あんなに気持ちよかったのに、あんな幸せな行為を…もうこれから生きる目標にしてたのに…

こんな幸せをいままで知れなかったのは…こいつのそんなこだわりだったのか?

あー…もうキスの話が呑み込めないから何も話が入ってこねぇ…


「…コウ君?」

「…ん?んぁ?」

「大丈夫?」

「あ、ああ…要はもう女の子ってことだろ?おちん〇んついててかわいいな…」

「…うん!これからももっとかわいいって言って!女の子として褒めてね!」

「おちん〇んついてても愛してくれるってわかってたよ!なぜならコウ君を信じてるからね!今までと違って自分も、コウ君も信じてるからね!」

「どう?変わったでしょ!?」

「あ…あぁ…かわいいかわいい」

「ムフフー!!」


フフッ…やっぱりそうだ!

コウ君は心配なんてしなくても遥かに期待を超えた事を言ってくれる!

少し不安だったのがバカみたい!

コウ君がそんなことを気にするはず無いもんね!

だってこんなにコウ君は私に優しくて愛してくれてるんだもん!


「よし!コウ君!お話はおしまいだよ!コウ君にとっては退屈な話だったよね!」

「だって関係なく愛してくれてるんだもん!」

「ほら、コウ君のお家行って必要なもの取ってこよ!」



「おっじゃましまーす!!」

「玄関から入ったのは初めてだね!」

「前来た時は部屋の窓から入ってきやがったもんな」

「あれ?最後に来た時はベランダの窓から入ったよ?」

「…俺が知らない時に入ってんだな?」

「いっちゃいけないヤツだったね…今のナシ!」

「ナシ!じゃねぇよ、かわいくてもごまかせないぞ」

「むほほ~ごめんね、私かわいい女の子だからさ」

「まあ楽しそうでよかったよ」

「それじゃあアサヒ、頼んでいいか?」

「はーい、アレ?思ったより荷物多いんだね」

「そうかもな、そんなことよりすまないな荷物持ちさせて」

「いやいや、そんなこと全然いいけど…」

「いやよくないんだ、男は黙って女の荷物を持つ生き物なんだ、それなのに…アサヒに持たせちまって」

「コウ君ってへんなこだわり強いよね、部屋着とかは私の家にあるもの使ったら?」

「それも少し考えたぞ、なんて言っても俺の服をまた精子まみれにされちゃ、たまったもんじゃないからな」

「でもこれは絶対に必要なんだ、このシチュエーションにおいてな」

「そう?まあなんでもいいけどね」

「心配しなくてももうコウ君を精子まみれにすることはないと思うよ、あの時は男として自分のものだってわからせたかったんだから」

「まあ断言はしないよ、コウ君への思いが抑えられないかもしれないからね」

「なるほどな、今更だけど家庭内別居してもいいか?それなら留守番もできるしアサヒから逃げれる」

「またまた~そんなこと言っても寂しかったんでしょ?私に会えなくて」

「久しぶりに誰にも水を差されずにイチャイチャできるんだよー?」

「…よく俺の考えがわかるようになったんだな」

「そりゃそんな少なめの脳みそなんだから予想しやすいよね」

「っくそ…このメスガキが…」

「ざーこざーこ♡」

「私の言葉は頭が空洞なだけによく響くでしょー?」

「…っく、夜おぼえとけ…」

「もしかして…気付いてないと思ってる?コウ君の弱点♡」

「…は?」

「わかってるんだからねー?コウ君、私とキスしたくてたまらないんでしょー?」

淡い桜色の唇がニヤリと口角を上げる。


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