第7話
「アサヒちゃん…もう体は大丈夫なの?」
「うん…さっきまでおなかの方まで痛かったけど…もう大丈夫…だよ…」
「アサヒ、無理は良くないぞ。ゆっくり休憩しておいたほうがいい」
「ありがと…でもよくなってきたからさ…」
「それよりも…コウ君と話がしたいから…二人きりにさせてもらっていい?」
「あぁ…でも気をつけろよ?そいつのことを簡単に信じるな!」
ふたたびコウにクラス全員の白い眼があつまる。
思い出したのは小学生の時にドッチボールで女子を泣かしてしまった時だ。
「ほらコウくん?一緒に行こ?」
「なんでだよ…ここで話せないような内容なのか?」
「そうだよ!私すっごく怒ってるんだからね!どのくらいかって言うと…すっごい怒ってるんだよ!」
「尾を引くくらいぷんぷんだよ!しばらく一緒に寝てあげないんだからね!!!」
「馬鹿!」
「…あっ」
「え、あの二人一緒に寝てるの…?」
「中のいいバカップルくらいに思っていたけど…」「まさか同棲…!!?しかもいつも一緒に寝てるの…?」
「はわ”わ”わ”わ”…」
「ち、違うの…これは…これはッ…」
「じゃあさっきの態度は…照れ隠しか」
「なんだ…やることやってるんだな」
「クソ!俺たちのアサヒに手出しやがってぇ!!!」
「何やってんだよ!自爆しやがって!」
「もう!全部コウくんのせいだよ!!」
「ハァ!?なんでだよ!何でもかんでも俺のせいにしたら丸く収まると思いやがって!」
「うるさぃ!ほら!来なさい!!!」
制服の裾を引っ張られて廊下を走る。
短いスカートからのぞかせるスパッツとムチムチの太ももの段差が足を交差するたびにコウの股間が膨らむ。
「さてと…コウ君?何か言うことある?」
ガラガラとコウの逃げ道を塞ぐように戸を閉める。
「…もう授業は始まってるぞ?…というかなんで誰もいない保健室なんて都合のいい物件が存在するんだよ…」
「第一声は謝罪じゃないんだー、へー」
「…ごめんなさい」
「ま、私はなんとも思ってないからいいけど~?」
「ほ、本当に?許してくれるのか!?」
「そうだねー…さっきコウ君が言ってたこれでおあいこって言ってたでしょー?
そしたらこれで私の今朝のことを許してくれるんでしょ?」
「そ、そうだ!そういえばそうだった!俺はそのことを許してやるんだから、アサヒも…!」
「それよりも…さっき私がアソコ…抑えてうずくまってる時に…興奮してたでしょ?」
「…ッ」
「まあ別に私もいいけどねー、私が苦しんでるのを見て興奮しちゃったんだもんねー」
「なにが…言いたい?」
「私はコウ君の性癖に付き合ってあげたってことがいえるんじゃない?」
「だったら次は私の性癖に付き合ってくれてもいいと思うんだけど…?」
「って…なんだそんなもんか…なんだよ、何してほしいんだ?そんくらいなら…全然」
(コイツがいくら性癖がイカれてるっていってもせいぜいがザーメンシャンプーが関の山だろう…少し嫌だがアサヒにしてはかわいい方だ)
「コウ君…キミは誰にも認められなかった私の部分を全部受け入れてくれたね…」
「ん?ど、どうしたんだよ…」
「そんなコウ君が…私は大好きなんだ!」
「な、なんだよ…早く何をするつもりなのか言ってくれよ…」
「でも…さっきはコウ君が…みんなから罵声を浴びせられてて…」
「私の大好きなコウ君を悪く言うやつなんか許せないの!」
「そこで私は思いついたんだ!」
「コウ君が私のものだってみんなが認めざるを得ないような、なにか決定的な印が必要なんだって!」
「コウ君…」
「まて、嫌な予感がする!やめろ!近くにくるんじゃない!」
「コウ君って…まだこっちの方は処女だよね…?」
アサヒが自分のぷりっぷりの尻を軽くぺちんと叩いて挑発する。
「クソ!やっぱりだ!碌な思考回路をしてねぇ!」
「コウ君…私と一緒になろうよ!ねぇ!なんで嫌がるの!?私のこと愛してるんでしょ!?」
「くそったれ!!!俺が愛してるのは女のオメーだ!それに逆カプが万人に受け入れられると思ってんじゃねえ!!!!」
「コウ君!自分の彼女が自分を悪く言うものに憂いて傷ついてるんだよ!?慰めるのが男の矜持ってものじゃないの!?」
こんな可愛い顔の女に掘られてたまるかってんだ!
掘られてるときにアサヒの顔でも見ちまったときには無様にメスイキしちまう!そんなんなったら正常な性癖に俺は戻れなくなる…
「今のオメーは彼女でも何でもない!ケツを狙いに来てやがるクソホモ野郎だ!!!俺はこんな性欲カマ野郎に付き合ってられるか!!!」
「なんでそんなこと言うの!!私の事好きって言ってたのは嘘なの!?」
「緊急脱出じゃオラアアアアアア!!!!」
パリーン!!!
「コウ君!!!ここ三階!!!」
「あっ」
「うっそおおおぉぉぉ!!!」
吹き飛ばした瑠璃にかぶさったアサヒは先ほどまでの俺のケツを追いかけていた性欲モンスターには映っていなかった。
もしかしたらそんなものは最初から存在しなかったのかもしれないな。
目の前で瑠璃の破片がくるくるとゆっくり回転する。
アサヒが届かないとはわかっているだろうが俺に手を伸ばし体が無意識のうちに助けようとしている。
血の気が引いた顔は宝石のように美しい。
嗚呼、俺は酷いことをずっと口走っていた。あいつは何よりも認められることを欲していた。
ずっとずっと小さいころから性別を認められず気持ちを共有できる人間が周りにいない、孤独感を飼い慣らしていたのだろう。
俺に依存する気持ちもわかるな。だが俺はあいつの愛に応えてやれるのだろうか。
今もこうしてあいつの気持ちを踏みにじっている。俺はあいつにふたなりでいい、お前は男じゃない、男の娘だと居場所を与えたと得意になっていたがそれも今思うと無理やり型にとらえようとしていただけ。
あいつの気持ちに寄り添ってなんかいない独りよがりな考えだったんだろう。
ならばこうして落ちていくのも妥当な禊だ、甘んじて受け入れよう、俺はこの堕落を受ける義務がある。
アサヒ…窓から身を出して手を伸ばさないでくれ、甘えたくなる。それにお前の手が傷ついたらどうする。
これ以上俺にお前を傷つけさせないでくれ。
俺にアサヒはあまりにも不釣合だったんだ、アサヒは俺なんかに収まるような器じゃない。それに…俺じゃあ力不足だ、持て余してしまう。
せめて…これがアサヒのトラウマになって…悲しませないように…笑って落ちよう
頑張ってみたがアサヒを悲しませてしまう
ほとんど見えなくなった目で最後に捉えたのは救急隊員に引きはがされる泣きじゃくりながら彼に縋り付くアサヒの姿だった。
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