第4話
いったん入力したコマンドは変更できないが、育成の途中経過は随時観察できるらしい。
一週間後に様子を見てみたら「知力」「プライド」などのステータスは大きく上がっていたが、他は下がっていた。特に「スタミナ」「気力」の低下が
これで「過度の勉強は良くない」と理解できた。バランスよく行動させないといけない辺りは、普通に育成ゲームなのだろう。
ゲームを始めて十日後、つまり五月二十一日。
今度は五日分のコマンドを入力する。相変わらず「勉強」関連が中心だが、必ず毎日「休憩」を入れて、他に「遊ぶ(友人と)」「よく食べる」も加えてみた。
すると一週間後には、少しずつ「スタミナ」「気力」が回復してきた。「魅力」もアップしているのは、おそらく「遊ぶ(友人と)」のおかげだろう。「勉強」関連が減った分、前回より「知力」は下がったが、それでも初期値より遥かに高いので十分だ。
ちなみに結果確認が「五日後」ではなく一週間後だったので、二日分はコマンド未入力だったが……。
それら二日分の行動を確認してみると、特に俺が指示せずとも、大谷直哉は勝手に勉強を頑張っていた。
コマンドを何も入力しなかった時は、どうやら最初に設定した「将来の夢」――大谷直哉の場合は「弁護士」――に向かって自主的に行動してくれるようだ。
「じゃあ、毎日毎日、全部コマンド設定する必要もないんだな」
とはいえ、完全に放置では育成ゲームの意味がない。
俺はだいたい十日分まとめて入力して、気が向いたら途中でも行動を確認。しかし俺には俺でリアルの生活があるため、このゲームに付きっきりは無理で、次のコマンド入力は「十日後」ではなく二週間後になったり、半月後になったり。
そんなサイクルで『高校生メーカー』を遊び続けて……。
俺の大学生活の三年目が終わる頃、ゲームの中の大谷直哉は卒業式を迎えた。
彼の進路は一流大学の法学部。「弁護士」という「将来の夢」に向けて、真っ当に人生のレールを歩んでいたのだ。
「ということは、とりあえず一人目の育成は成功ってことか」
口では「一人目」と言ったものの、正直「一人だけで十分かな」という気分だった。
育成ゲームとしては特別面白いシステムではなく、むしろ逆に、リアルタイムで進行する点が面倒だった。高校は三年間、つまり一度のプレイで丸々三年を費やしてしまうのだから、よほどの暇人でなければ何度も遊べないゲームだ。
そんなことを考えたが……。
大谷直哉の卒業式のスチルを眺めているうちに、その気持ちがガラッと変わる。
校門前で記念撮影するイラスト。そこに描かれた学校に見覚えがあり、門柱には『N市中央高校』という文字があったのだ。
「おい! 『N市』なんて誤魔化してるけど、これって
思わず大声で叫んでしまう。
ゲームの舞台として使われていたのは、俺の出身高校だったのだ。
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