第3話

   

「おいおい、いきなり自由度が低いぞ……」

 ゲームを始めてまずやるべきことは、自分が育てる高校生を選ぶこと。

 髪や瞳の色、鼻や口の形、顔の輪郭など、細かいパーツを組み合わせてキャラメイクできるのかと思ったら、そうではなかった。最初から百人くらいのキャラクターが用意されていて、その中から選ぶシステムだ。

 まあ「百人くらいのキャラクター」という時点で選択肢は豊富かもしれないが、その名前すら自分で設定できず、それぞれ既に決まっていた。

 しかし、よく考えてみれば……。

 最初の画面で選択する高校生はプレイヤーの分身ではなく、プレイヤーはその高校生を育てる立場に過ぎない。生まれたばかりの赤ん坊でもないし、ならばプレイヤーが名前や容姿を決められないのも当然だろう。

 そう自分を納得させて、俺が選んだのは、眼鏡をかけた黒髪の少年。いかにも真面目そうな顔つきで、大谷おおたに直哉なおやという名前だった。


 キャラ選択の次は「将来の夢」の設定だ。高校卒業時点で何になるかではなく、あくまでも将来的に目指す方向らしい。「社長」「医者」「学者」「政治家」「弁護士」など、高校を卒業しただけでは無理な職業が並んでいた。

 例えば「プロ野球選手」「サッカー選手」「フリーター」のように、高卒でなれるものもあったが、どれも現実的な選択肢ばかり。残念ながら「神」も「悪魔」も見当たらなかった。

「まあ、一度クリアしたら新たな選択肢が解放される、って可能性もあるし……」

 自分でもあまり信じていない可能性を口にしながら、俺はゲームを進めていく。

 俺が選んだ大谷直哉は堅実そうな外見なので、そのイメージから「将来の夢」は「弁護士」にしておいた。


 育成のためのコマンド入力画面まで来ると、本格的に育成ゲームが始まった気分になる。

 どうやらリアルタイムで進行するゲームらしく、まず初日は五月十一日、つまり今日の日付になっていた。『高校生メーカー』のくせして、既に高校入学の段階は終わっていたのだ。


『何をしますか?』

 という質問に続いて「学校へ行く」「塾へ行く」「よく食べる」「食事を減らす」などの選択肢が表示されていた。

 例えば「勉強(予習)」「勉強(復習)」「運動(筋トレ)」「運動(野球)」「運動(サッカー)」「アルバイト(コンビニ)」「アルバイト(工事現場)」というように、かなり細分化されている。

 最初に真面目な選択肢が目についたが、もちろん「遊ぶ(ゲーム)」「遊ぶ(友人と)」「遊ぶ(デート)」「読書」「音楽」「休憩」などもあり、中には「喧嘩」「喫煙」「飲酒」という問題ありそうなコマンドも。

 ちなみに「喫煙」を選んでみると『本当に「喫煙」で良いですか?』と確認画面が出てくる。「勉強(予習)」だと出ないので、どうやら「喫煙」は非推奨らしい。

 一日の行動は十個まで入力できるし、同じコマンドの複数入力も可能なようだ。しかし、試しに「勉強(予習)」「勉強(復習)」「読書」「音楽」だけで十個埋めてみたら『平日です。本当に「学校へ行く」無しで良いですか?』という確認画面になった。とりあえず平日は「学校へ行く」を一つ入れておくのが無難だろう。


 そんな感じで、まずは十日分の入力を済ませる。「弁護士」を目指す大谷直哉なので、あえて「勉強(予習)」「勉強(復習)」「塾へ行く」を多めにした。「遊ぶ」関連どころか「休憩」も一切無しで、週末に気分転換のつもりで「読書」を一つ入れただけ。

 リアルタイムで進行するゲームということは、この入力が大谷直哉にどう反映されるのか、十日後にならないと結果はわからないのだろうか。

   

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