第2話

   

 ドアを押し開けると、カランと乾いた音のベルが鳴った。「いらっしゃいませ」の声はなかったけれど、レジの横に座っていた中年男性が、ジロリと睨むような視線を向けてきた。

 店主なのか店員なのか知らないが、ちょっと嫌な感じだ。

 俺は彼を無視して、店内を物色し始める。棚に並んでいるのは、どこの店にもあるような有名なゲームばかり。中古なのでその分だけ安くなっているが、他店より特別安いわけではなかった。

 この辺りは、同じような中古ゲーム屋がいくつもある界隈だ。「この店ならでは」のアピールポイントがなければ、それらの店に埋もれてしまい、すぐに潰れてしまうのではないだろうか。

 そんな失礼なことも考えながら、さらに店内を見回す。すると片隅にあるワゴンが視界に入った。


 ゲームソフトが乱雑に放り込まれている。いわゆるワゴンセールというやつで、近づいてみると、見たことがないゲームばかり。ゲーム機ではなくパソコン用のソフトが多いようだ。

「これは……。案外、掘り出し物があるかもしれないぞ」

 期待が独り言となって口から漏れる。

 ちょうど手に取ってみたゲームは、俺のパソコンに対応しているソフトだった。

 値段はわずか五十円で、どうやら育成ゲームらしい。『高校生メーカー [Ver. N]』という地味なタイトルだが、箱の裏面には赤字で「神にも悪魔にもなれるゲーム」というキャッチコピーが記されていた。

「『高校に入学した少年少女を、卒業まで育ててください。学業に専念するもよし、スポーツに励むもよし。アルバイトに精を出したり、趣味の世界で頑張ったりも良いでしょう』か……」

 説明文を読んでいくと、派手なキャッチコピーとは裏腹に、当たり障りのない内容しか書いていなかった。「神にも悪魔にもなれる」という雰囲気は全く感じられない。

 もしも高校卒業の時点で神や悪魔に育つのだとしたら、それこそ面白そうだが……。

「まあ、いいか。たとえ期待外れのクソゲーだとしても、この値段なら」

 一回か二回で飽きてしまっても惜しくはないし、暇つぶし程度には十分だろう。

 そう考えた俺は『高校生メーカー [Ver. N]』を手にしたまま、レジへ向かうのだった。

   

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