高校生メーカー [Ver. N]

烏川 ハル

第1話

   

 最近のゲームはオンラインが主流になり、一人でオフラインで遊ぶゲームは、もはや下火なのかもしれない。そもそもオフラインのゲームも通販で買えたり、ダウンロード販売の形式だったり。

 そのせいか、街でゲームソフト屋をあまり見かけなくなった。せいぜい大手のチェーン店が残っている程度だろうか。

 しかし昔は、名もない小さなゲームソフト屋がたくさんあったもので……。

 あのゲームを買ったのも、そんな店の一つだった。



 中学時代の俺は、勉強もスポーツもごくごく平凡。地元の公立高校へ進んだところ、高校二年になった頃から、なぜか成績がグンと良くなった。特に必死に勉強した覚えはないのに、東京の国立大学に現役で合格できたほどだ。

 大学生活のために上京して、一人暮らしを始めた時点では、夢と希望に満ち溢れていたが……。

 もしかしたら、新生活に期待し過ぎていたのかもしれない。思っていたほどワクワクする出来事は起きず、大学に入って一ヶ月が過ぎた頃には、すっかりテンションがダウンしていた。五月病といったら大袈裟だが、少しそれに近い感じだったのだろう。

 とりあえず大学へ行って授業を受けて、終わったらアパートに帰って、テレビを見たりゲームをしたり。ダラダラ過ごしているという自覚はあるものの、だからといってヤル気も出ない毎日だった。


 適当に都内をブラブラすることもあり、その日も電気街まで出かけていた。

 特に買いたいものはなく、ただ何となく裏通りを歩いているうちに……。

「あれ? こんなところに、こんな店が出来たのか?」

 PCのパーツ屋だったり、中古ゲーム店だったり、ジャンクショップだったり。怪しげな店も多いけれど、むしろそれが面白くて何度も通った裏道で、見慣れない店を目にしたのだ。

 青みを帯びた灰色に塗装されて、ドアの両脇には、小洒落た喫茶店みたいな窓が二つ。ただし店内を覗いてもテーブルや椅子は見当たらず、本屋かビデオ屋のような棚が並んでいる。

 改めて店の外観に注意を向けて目線を上げると、大きく『中古ゲーム』と書かれた看板が目に入った。

「新しい中古ショップか……」

 どこにも店名すら表示されていないのは、いかにも胡散臭い雰囲気で、この付近にはピッタリだ。

 俺は興味を掻き立てられて、ニヤリと笑いながら、その店に入っていく。

   

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