第97話 グレアの帰還
俺はずっと皆に支えられていた。
ひとりぼっちでダンジョンに取り残された時もそうだ。
皆がいたから、俺は……生き残ることができた。
皆を守ることができれば、本望。
たぶん、自分は死んだんだな。意識を失ってから、本能的にそう思った。
俺を信じてくれた人たちを守り切って、諸悪の根源を断ち切った。それだけで十分だ。期待に応えることができた。
『まだ死んではいけません。あなたには待っている人がいます』
謎の女性の声が聞こえる。あの日聞こえた声と同じだ。
「そんなこと言わないでくださいよ。俺は、皆を守ることができた。それだけで十分なんです」
『でも、あなたはまだ約束を果たしていませんよ。最愛の人との約束を』
※
「ナタリーが悲しまなくてもいい国を作りたい。この国を変えたい」
※
幼少期に幼馴染に誓った言葉が思い出される。
でも、もう体に力が入らない。たぶん、あの悪意の象徴のせいだ。俺はあの悪意を封じ込めるために力を使い果たした。
だから、もう現実に戻ることはできない。
『そんなことはありませんよ。あなたは、奇跡を起こした。だから、大丈夫です。私たちが残っている力をあなたに授けます。だから、どうかお願いです。私たちのような悲劇が起こらない世界を作ってください』
優しい女神のような声だった。どこかに安心感さえ覚える。
「あなたは?」
『名乗るほどの者でもありませんよ。でも、私にとって、あなたは恩人です』
「会ったこともないのに?」
『ええ、そうですよ。最愛の人が、苦しみながらダンジョンをさまよっていることを見続けなくてはいけなかった私にとって……彼を救ってくれたグレア。あなたは、最高の恩人です。例え、魂が尽きようと、私はあなたに
ボールスの顔が思い浮かんだ。たぶん、この女性の声は、かつての彼の思い人だろう。
「俺はむしろ、ボールスにもあなたにも助けられたのに……」
『いえ、あなたは私たちを無間地獄から救ってくれたんですよ。無自覚でもいいのです』
かつて、ボールスに話した言葉が思い出される。
※
「もういいんだよ。他人のために、自分を犠牲にするのはさ」
「いいか。仲間たちは……お前を愛してくれた人たちは、お前が苦しむことを望んでなんかない。お前に笑っていて欲しいんだよ。自分を犠牲にすることが、死んだ仲間たちの願いじゃねぇんだよ」
「この手を取れ、そして、この腐った世界を一緒に変えようぜ。俺たちならきっとそれができるはずだ、ボールスっ!」
※
『あなたは、私たちの伝わらない言葉を代言してくれた。だから、彼は救われた。私たちが数十年苦しむことしか見ることができなかった彼を救ってくれた。この恩を返します』
決意を込めて、彼女は俺に言葉を伝えた。
「ありがとう」
『お礼を言うのはこちらですよ。ボールスに伝えてください。あなたがやるべきことを果たして、生まれ変わったら、また一緒に冒険しようって。次は、絶対に素直な気持ちを伝えるからって』
彼女の純粋な気持ちが重く自分の心に突き刺さる。俺も、一歩間違えれば、ダンジョンで死んでいた。ナタリーに重みを背負わせることになっていたのかもしれない。
「わかったよ。ありがとう、俺を助けてくれて。ボールスのことは任せてくれ」
優しい気持ちに包まれながら、現実世界へと戻っていく。
目が覚めた時、俺を出迎えてくれたのは、最愛の家族と仲間たちだった。
――――
(作者)
次回は、いよいよソフィーと決着をつける予定です!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます