第94話 復活した王太子の絶望
―王太子視点―
ここはどこだ。
俺はどうなった。たしか、グレアに復讐されて、死の迷宮の奥に……それで、変なやつに身体を乗っ取られて……
自分の身体をよく見る。肌は、緑色のごつごつしたモンスターのようになっている。爪は人間のそれではなく、ドラゴンのような鋭利なものに変わっていた。
腹部に強烈な痛みが走った。恐ろしい勢いで血が噴き出ている。しかし、ごぼごぼとグロテスクな身体がうごめいていく。熱を持ったかのように激しいうずき、傷が塞がれていった。その際に痛みは、さらに激しくなる。
「俺の身体は、いったいどうなって……これじゃあ、怪物じゃないか」
そして、失っていた記憶が少しずつよみがえっていった。
ここがダンジョンの最下層。王族に伝わる禁断の地。本人たちですら知らない
守護竜と契約して、このダンジョンを守らせたのも、最下層にある秘密を守るためだ。真実の後継者と呼ばれる人間が王国を滅ぼすという不吉な予言が書かれていると言われる壁画。ただし、ここが封印されて以降は、時の国王ですらそれを見ることはできなかった。
見てはいけないはずなのに、壁画に目を向ける。
「ケイルの英雄たち、ここに眠る。英霊たちのために、我、ここに真実を記す。ケイル王国の最後の生き残りとして、先代たちの築いたものを侵略者から守るために」
化け物のようになった後遺症のようなものだろう。感覚は研ぎ澄まされて、壁画の意味を一瞬で理解することができた。
1000年前、この地には、かつて魔力で栄えたケイルという王国が存在したこと。彼らの魔力技術は、とても優れていて、高いレベルの魔石すら量産できるほどだったこと。
しかし、イブグランド人という海賊のような野蛮人たちが、自分たちをだまし、病気を持ち込んで国を混乱させて、虐殺を行い、王国を乗っ取ったこと。
ケイル王国の生き残りは、なんとかこの迷宮に逃げ込んで、自分たちの魔力技術を隠したが、それが精いっぱいだったこと。
追手によって仲間たちは次々と殺され、壁画の作者ももう逃げることはできないことを悟り、彼らの独自の魔力で消すことができない壁画を最後の力を振り絞って残すこと。
「まさか、イブグランド王家は海賊だったのか。そして、この地にあった国を乗っ取った侵略者。じゃあ、俺たちは……この地の正当な後継者じゃないってことか」
今まで自分が信じてきたプライドが音もなく崩れていくのが分かった。
イブグランド王族の始祖は、この地にすまう悪魔を討伐したことで、国を譲られたと言われていた。だが、この壁画には、本当の悪魔は俺たちだという。
「ケイル王家の血は、どこかで絶対に生き残る。その子孫が、
殺さなくちゃいけない。この真実を知られるわけにはいかない。今ならグレアは戦闘できないはず。この力ならいけるはずだ。
目撃者がいなければ、まだ隠し通せる。
しかし、倒れていたはずの真実の後継者は、立ち上がった。
「なぜ、意識がある。あれほどのダメージを受けて、なぜ」
「守るんだよ、みんなを」
自分に言い聞かせるように、グレアは立ち上がった。
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