第92話 薄れていく意識

 怪物は、全身から光を解き放った。魔力もこめられているオーラが一気に放出されて、それが暴走していく。暴走した光がお互いに干渉し、爆発を引き起こした。これでは狭いダンジョン内で、最上級魔力を使うようなものだ。下手をすれば、ダンジョンごと崩壊する。


 絶体絶命の状況で、自暴自棄になった怪物が、無理心中のような形で、俺たちまで巻き込もうとしているんだろう。


 転移結晶を発動させるにも、皆を集めるには時間が足りない。

 俺は自分の身体の力をすべて振り絞って、爆発を相殺しようとする。


「ぐっ」

 強力な圧力が身体を痛めつける。だが、ここで引けば、俺の後ろにいる大事な人たちが巻き込まれる。死守。絶対に通すわけにはいかない。


 意識が急速に遠くなっていく。まるで、睡魔に負けるように、まぶたが重い。

 これがこのダンジョンに巣くう悪意の集合体の力か。いや、悪意じゃない。これは、この国に裏切られて絶望したすべての人たちの絶望の声だ。


 これを乗り越えられなくては、俺たちは理想を実現できない。

 俺は、ナタリーに誓ったんだ。


 ※


「俺はいつか大人になって、この国を変えてやるよ。ナタリーのお父さんみたいに、政治の犠牲者が出ない国を作りたい。皆が笑える国にしたいんだ」


 ※


 そんな純粋な願いが、今では重い事実となって、俺に襲いかかってくる。

「お前にこの国を変えることができるのか。その資格はあるのか?」

 絶望は常にそう問いかけてきた。


「俺にはそんな資格なんてないかもしれない。ただ、運よくこのダンジョンで生き残ることができただけだ」


「ならば、お前もここで死ね。組織システムが変わるだけで、なんとかなるほど甘いものではない」


 もう、怨霊おんりょうのような呪いの言葉。俺一人ならあきらめそうになるだろう。でも、もう俺はひとりじゃない。


「俺にはできないかもしれない。でも、俺たちならできる」

 ここで死んでしまってもいい。俺の後ろにいる仲間たちが生き残ることができれば、俺の意思は皆が継いでくれる。


 政治的な才覚に恵まれたナタリー、天才・オーラリア、ボールスやスーラ。皆がいれば、変革なんて簡単だ。俺はただの象徴みたいなもんだ。別にいなくても、皆ならうまくやってくれる。


 ※


『やめなさい。あなたは、真実の後継者。あなたは選ばれた者です。あなただけなら、生き残れる』


 ※


 ここに落とされた時に聞こえた謎の声が、また語りかけてくる。


「うるさい」

 ポツリと言葉が漏れた。

 謎の声が息を飲むように言葉を詰まらせる。


「自分が選ばれたからと言って、特権意識を持って生き延びて、何が残る。大事な人たちを守れずに、自分の命を優先するなんて、王族たちと同じじゃないか。俺はあんな奴らと一緒になりたくない」

 命の限界を超えて、俺は力を解放する。

 虚脱感に襲われながら、すべての光を一身で受け止めた。


 後方から大事な人たちの声が聞こえた。

 攻撃の影響で、地面が少しずつ崩壊していく。下の階も、あの攻撃のせいで崩壊していた。自分の身体が浮遊しているのがよくわかる。俺は力なく自然の摂理に身を任せた。


 仲間たちも怪物も一緒に落ちていく。皆無事だな。あとは、任せたぞ。

 力を使い果たして、死というものが身近になったが、不思議と怖くない。


 むしろ、充足感にあふれていた。


「センパイ」

 最愛の女性ナタリーの声が聞こえる。彼女のぬくもりが冷たくなった身体に伝わる。俺は幸せを噛みしめながら意識を失った。


――――――――――


ステータス


王太子

イブグランド王国次期国王。

英雄と呼ばれた父親には劣るものの、優れた才覚を持っている。

しかし、父親による幼少期から受けた虐待のような暴力と、異母弟たちすべてがライバルという環境によって、性格はゆがんでいる。幼少期に母親を政争が原因で亡くしているため、女性に対してもゆがんだ価値観を持っており、極度の人間不信の状況にある。自分を求めて欲しいという欲求が暴走し、婚約者や恋人がいる女性を権力や地位を使って篭絡ろうらくすることに、喜びを感じていた。

ミザイル公爵家の息子たちには、嫉妬のような複雑な気持ちを抱いている。

グレアには、誰からも愛される人間性へのあこがれと嫉妬。

オーラリアには、自分を上回り父王からも期待される才覚へのあこがれと嫉妬。

ミザイル公爵家への嫌がらせのために、ソフィーと浮気したが、それが原因で自分が破滅した。

(能力)左:現在/右:ポテンシャル

政治:51/72

武力:61/78

統率:65/71

魔力:55/79

知略:40/69

魅力:99

義理:18


(適正)

剣:B

騎:B

弓:B

魔:C

内政:C

外交:C

謀略:A

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