第85話 悪意の象徴
やはりこうなってしまったか。
俺は絶望感に染まりながら、ナタリーの前に立ちふさがる。
別行動のコウライに、王都で転移結晶をしかけてもらい、国王を捕虜にした後、
だが、一つ問題が発生した。何者かが死の迷宮から脱出して、王都に向かっていることが分かった。転移結晶を使って、ダンジョンの監視を担当してもらっていたギルド協会支部のメンバーからすぐに連絡が届いた。王太子とソフィーだと直感でわかった。王宮制圧は秘密裏に行われたため、ここに俺たちがいるとは思っていなかったのだろう。
ナタリーはすぐにソフィーの作戦を分析してしまった。
「おそらく、ソフィーさんはクーデターを起こすつもりなんでしょうね。彼女は、センパイの力を知らない。だから、公爵軍の敗北を前提に計画を作っているのでしょう。先輩、最後に話す時間をいただけませんか。私はどうしても、彼女を諦めきれないんです。あなたを失ったと思いこんだことで、自暴自棄になって暴走した彼女のことを、私は本当の姉のように思っていたから。説得する時間をください。失敗したっていいんです。そうしないと、私は前には進めない」
悲痛な覚悟を固めて訴えるナタリーを見て、俺は何も言えなくなった。
「危険な目に合うかもしれないぞ」
「その時はあなたが守ってくれるでしょう?」
※
結局、ナタリーの言葉はソフィーには届かなかった。
どういうわけかわからないが、王太子は化け物のようになっていた。なにかに取りつかれたような……
そして、ソフィーは怪物と手を組んだのだろう。力に取り込まれていたように見える。悪霊のような存在だ。旧イブグランド王国の悪意を一身に集めたような表情に絶望さえおぼえる。
「ついにでてきたわね。グレア。私たちを見殺しにしようとしたのに、ナタリーさんだけは助けるのね。ふふ、やっぱりそうなんだ。あなたは、私よりもナタリーさんの方が大事なのね。ずっとわかっていた。でも、やっと理解できた。そうよね、私みたいな性悪女なんかよりも、彼女の方がずっと……」
「それはちが……」
ナタリーが口を挟もうとした瞬間、ソフィーの手から魔力の衝撃波が繰り出された。下級魔力だ。俺は身体を盾にして、彼女を守った。
「やっぱりそうだ、そうなんだ。そうやって、あなたちはずっとふたりの世界で。私をのけ者にして。やってしまいなさい、怪物。あの程度でやられるようなあなたではないでしょう。もうなにもいらない。無慈悲にこの王都ごと焼き払いなさい。ここがすべての諸悪の根源」
すでに半狂乱の状態でソフィーは叫んでいた。かつての聡明さも気高さも残されていない。怪物は口に魔力を集中させている。それは守護竜のブレスのように巨大になっていく。
止めなくてはいけない。まだ、間に合う。
俺が身体を動かそうとした瞬間、一人の老人がこの場へと乱入してくる。王国の悪意の象徴の一つ、情報局の長だった老人だ。
「バランドっ……」
俺は思わずそちらへの対処をしなくてはいけなくなり、攻撃のテンポが遅れた。
「私は、陛下や殿下たちに忠誠を誓った身。王位の
悪意の象徴のような3人がこの場に集結した。新政権を縛り付けるような、守旧派たちの悪意が具現化したような場所になる。
そして、怪物となった王太子から攻撃が放たれた。
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