第83話 王宮にて

―ソフィー視点―


 そして、私たちは王都へと向かった。

 途中で、王族派の貴族たちを粛清しながら進む。王族や王国の権威にあぐらをかいていた貴族たちが情けなく命乞いしながら、殺されていく。これが私の望んだことなのね。


 今まで、差別していた王国派の幹部たちを抹殺するとき、ゾクゾクとした快感が身体を駆け抜けた。


『やめろ、私は王国の重臣……ぐへ』

『助けてくれ、金ならいくらでも払う。だから……死に……』

『選ばれた人間である私がお前らごときに殺されるわけがない。神はそんな運命認めな、やめろぉぉぉおおおおおぉぉぉ』

『王太子殿下、なぜです!? 私は王族に粉骨砕身の……ぎゃああぁぁァぁあああ」


 勘違い貴族たちの断末魔が耳に心地よい。

 もっと聞きたい。王宮を破壊しつくせば、それが叶う。


「早くいきましょう。私たちの敵に鉄槌てっついを」

 あえて、回り道しながら、王党派貴族たちを虐殺していくことに少しだけ飽きた。そろそろメインディッシュの時間ね。


 一番危険な国王や近衛騎士団長は、現在公爵領にいるはず。すぐには帰って来れない。つまり、残った戦力だけなら制圧は容易。


 あとは、真実を公表し国王を抹殺できれば新政権が誕生する。王都の近くに領地を持つ有力貴族たちも戦場にいるか、私たちに殺されたかのどちらか。もう、王都を守る存在はいない。

 

「だが、女よ。国王が公爵に敗北する危険はないのか? そうなれば、すべてが無意味になるぞ」


「ありえないわ。戦力差がありすぎる。でも、さすがに公爵家の精鋭部隊を相手にするわけだから、数日ですべてが終わるとも思えない。だから、国王は真実を公表されてもすぐには王都には戻って来れない。その間にすべて奪ってしまえばいいのよ。国民や反主流派貴族たちは常に不満をためこんでいる。この現状を利用すればいいの。簡単でしょ」

 鉄の香りが充満する豪華な貴族の屋敷を後にする。

 そして、王都へと凱旋がいせんするために飛び上がった。


「今日からは、私の時代よ!!」


 ※


 王都に戻ると、簡単に王宮に近づくことができた。


「おかしいわね。空中から不審な存在が近づいてきても、攻撃はおろか威嚇いかくすらないなんて。いくらほとんどの兵力を遠征にだしているとしても不用心すぎる。注意してね」


「ああ、わかっている」

 王宮の城壁にどれだけ近寄っても、やはり何のアクションも発生しなかった。

 拍子抜ひょうしぬけしながら、私たちは無傷で王宮に潜入できた。


「どういうことよ、これは」

 普通なら使用人や兵士が歩いているはずの廊下ろうかに誰もいない。この場所は国家の中枢中の中枢。しかし、これではただの盗賊にすら国宝を盗まれてしまうだろう。


「何かの罠か?」

 怪物も警戒していた。


「そうかもしれないわね。とりあえず、玉座の間に向かいましょう。そこにある玉璽ぎょくじさえ確保できれば、王太子という立場とともに正当性を確保できるはず」

 一瞬の焦りをおぼえながら、私たちは玉座の間に向かって突き進む。何者かによって、私たちの計画が探知されていたとするなら、王族や玉璽の隠れ場所を早く見つけ出さなくてはいけないのだから。


「ここね」

 仰々しいほど大きな扉を開ける。ゆっくりと扉は開いていく。王と王妃だけが座ることを許された2つの空の玉座がそこにあるはずだった。


「お待ちしておりました」

 女の声が聞こえた。一瞬、王族の誰かかと思ったが、その声は私がよく知っている声だった。聞き間違えるはずがない。彼女の声。


 そして、彼女は王妃の席に座っていた。


 王太子の母である王妃は若くして亡くなっている。つまり、ここに座ることが許されている人間なんて、この国にはもう存在しない。


 つまり、声の主は亡霊か……


 それとも、簒奪者さんだつしゃだけ。


「ナタリー、さん?」

 一番会いたくはなかったかつては妹のように思っていた女の子が冷たい視線をこちらに向けている。抗議のような、見限っているようなそんな冷たい目線。


「お久しぶりです、ソフィーさん。もう私が知っているあなたではないようですが……それが力に狂った虐殺者の顔なんですね。もう、本当に私が愛したソフィーさんは死んでしまった」


「どうして、あなたがここに……」


「すべてに決着をつけるためですよ」

 謀略者ナタリーは、邪悪な笑みを浮かべた。

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