第76話 国王敗北
国王は、守護竜の存在が唯一の希望なのだろう。たしかに、あんな怪物を
例えば、あの竜を敵地の重要拠点に向かわせて、すべてを焼き払うとかな。あのドラゴンの強さは10万人の兵士に匹敵するほどのものだ。だから、20年戦争でも勝つことができた。そして、孤児や政敵を犠牲にして、王国の守護竜として祭り上げていた。
「守護竜さえ、守護竜さえいれば……」
オーラリアに戦略的には完全に敗北した。そして、戦士としての実力は、俺よりはるかに劣る。今まで作り上げてきた自信と誇りがすべて砂のように崩れ落ちているんだろう。俺がダンジョンに落とされた時と同じように。
最高の英雄。最強の兵士。20年戦争の英雄として、信奉されていた国王はそのより所をすべて失ったんだ。
残ったのは、肥大化したプライドだけ。自分の残した実績も栄光も全部過去の産物になってしまった。その残酷な事実が国王を苦しめているんだろう。王国民のすべてから
俺は、ダンジョンから持ってきた2つの物体を国王に投げつける。
わざと国王の目の前に転がるように力を調整しながら。ドラゴンの巨大な爪と牙だ。ここまで大きいとクマ型の魔獣と間違えることもできないはずだ。それが国王に冷たい現実を突きつける。
「これは……」
「お前が、さっきから会いたがっていた守護竜だよ。まぁ、守護竜だったものと言った方がいいだろうけどさ」
その言葉を聞いて、国王はすべての事実を把握する。白い顔は、病人以上に青くなる。
「嘘だ。嘘だ。数十年間、どんな強力な冒険者にも打ち勝ってきた守護竜がこんなことになるなんて。嘘だァぁあぁぁああぁぁ」
絶叫がとどろく。老年の王が、まるで少年のように絶望していた。心が砕かれる音がする。
「嘘じゃない。お前たちが……国民を裏切り続けてきた象徴である守護竜は、俺たちが討伐した!! お前たちの切り札は、もうこの世界にはいない。あとは国王。お前だけだ。大人しく罪を償え」
「守護竜が、殺された。お前たちに?」
まだ認められないんだろう。その様子は、覇王と恐れられていた国王とはまるで違う。絶望に染まっていた。
「わからないのか。守護竜を倒した俺は、伝説の英雄なんて言われていたお前よりもはるかに強くなってしまったんだよ。だから、大人しく投降しろ。これ以上、犠牲を増やすな」
「認めない、認めない、認めない」
まるで、土下座するように国王は震えだした。憐れだな。とりあえず、気を失わせて、捕虜にしよう。そう思って、俺が哀れな老人に近づくと。
「国王陛下に何をする!! このしれ者がっ」
セバスチャン執事長を圧倒していた騎士団長が、俺に向かって突撃してきた。普通なら油断している俺の首を一撃で切断していたはずだ。まぁ、それを考慮していないわけがないんだが。騎士団長クラスの魔獣ならダンジョンで何回も戦った。だから、仲間たちがどうとでも対処してくれる。もう、完璧な信頼関係が出来上がっている俺たちに死角はない。お互いの命を預けて、ダンジョンを進んだ。こんな戦場が生ぬるいと感じるくらいには、な。
「おいおい、俺たちがそれを許すと思ったか? 誇り高き近衛騎士団長様?」
あきれたように相棒の声が聞こえた。近衛騎士団に最も恨みを持っているはずの
「まさか、この速度に反応できるだと!?」
「残念だったな。俺もお前の前任者や国王に利用され、守護竜に捧げられた元
ボールスの言葉は、凍てついていた。すでに、ロッキーの分身とマーリンの強力な魔力で敵のほとんどは無効化されている。国王を守るのは騎士団長だけだ。
「なんだと」
「教えてやるよ。生きるために剣を使ってきた修羅の道を。お前や王族に対する恨みをはらすために、あのラビリンスで生き抜いて来た剣技を!!」
ボールスは、圧倒的な速度で剣を振るう。国内最強の剣士と言われていた騎士団長はなすすべもなく、斬りつけられて虫の息になる。騎士団長を助けようとかけつけた兵士たちも、スーラによって妨害されて、なすすべもなく溶かされていく。
「これで王国最強の剣士など……笑わせるな」
騎士団長は重傷を負って倒れる。ギリギリ生きているな。完全に虫の息だ。
王国の中枢にいる人間は、できる限り捕らえたほうがいい。
だから、殺さないようにしてくれているんだろう。
国王は騎士団長が、赤子のように簡単に倒された光景を見て絶望して、涙さえ浮かべていた。
これで勝利はほぼ手中に収めた。
だが、父上は最高の政治家だった。政治において一番大事なことは敵を作ることではない。味方を多く作ることだ。父の口癖が頭に反復する。
『この戦場にいるすべての者に告ぐ。私は、ミザイル公爵だ。諸君たちには、2つの大事なことを伝えなくてはいけない。王族が我々を裏切っていた真実と、ブーラン貴族についてのことだ』
父上の顔が空中に映し出された。俺がダンジョンで手に入れた秘宝を使って、魔力映像を空に流していた。
これが王国へのとどめになるはずだ。
父上は、真実を告白する。
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