第71話 決戦

―国王視点―


「まだ、あいつから連絡は来ないのか?」

 陣中でイライラを募らせて、伝令に何度も確認してしまう。

 公爵領の一歩手前で軍事訓練。


 早く戦争を行いたい。心にすまう血にえたケモノが叫びだしそうになっていた。


 予定では王太子が2日前にダンジョンに到達しているはずだ。

 そこから守護竜とともに公爵領を襲撃する手はずになっていたはず。どんなトラブルが起きたとしても、すでに連絡が来てなければおかしい。あの息子の性格から考えれば、すぐにでもこちらに向かうはず。


 廃嫡をちらつかせたんだ。

 失敗して、このわしに恥をかかせるなら、息子と言えども容赦ようしゃはない。あのブーラン貴族の娘ごと、残忍に処刑するだけだ。


 あいつには期待していたんだがな。やはり、器ではなかったか。

 妹を失っただけで、あの動揺。失望だ。王の器にはなれなかったか。


 ソフィーというあの女は、なかなかキレモノに見えたが。ダンジョン内で起きたトラブルに対処できなかった。そういう運命か。


 こうなった以上は、死の迷宮で何が起きたのか。それが最も重要な事実だ。

 考えられるのはいくつかある。


 まずは、息子が私に反逆した可能性だが。おそらく、それはない。王は常に命を脅かされる存在。側近や兄弟などに殺される王の例は、枚挙まいきょにいとまがない。だが、一番危険な相手は、後継者に指名した子供だ。


 後継指名した瞬間に、その息子の周囲には派閥ができる。将来の王に取り入ろうとする人間はたくさんいる。そして、私に対して不満を持っている人間もな。だから、私の後継者には、私自身に対して恐怖心を植え付ける必要がある。


 長男が生まれた時、この子供を後継者に育てることにした。親から離して育てて、英才教育を積ませつつ、時折、親への恐怖心を植え付ける。そうすれば、側近だろうと恋人だろうと誰も信用しない子供が出来上がるのだ。


 そうすれば、本当の味方など誰もいない。

 親におびえながら、私の言うことをただ聞くだけの存在になる。それで都合がいい。


「まさか、最後の最後でな。まぁ、いい。あいつの代わりなどいくらでもいる」

 

 さて、そうなると考えられるのは、向かわせた護衛に裏切り者がいて、ダンジョン内で反逆にあったということだ。それが一番可能性が高いだろう。公爵派の人間が潜伏している可能性はあるし、その手練れにあの無能な息子が殺されるのはわかりやすい。おそらく、守護竜と接触前に殺されたと考えれば、ここに竜が到着しない理由も筋が立つ。


「まぁ、いい。竜がいなければ、こちらから仕掛けてしまえばいい。数では圧倒的に勝る。勝てば、あとはどうとでもなる」


 そして、もう一つの最悪の可能性が頭をかすめた。いや、そんなわけはない。そもそもどんな屈強な冒険者だろうが、あのフロアまで自力到達はほとんどできない。たとえ、到達できたとしても、消耗している体力であの最強の守護竜を討ち滅ぼすなど夢のまた夢だ。


「(まさか、あの守護竜が誰かによって討伐されたとでもいうのか。ありえない。そんなことができる有力冒険者が国内にいる情報はない。そもそも、数百年間で数組しかあの奥深くまでたどり着くことすらできなかったのだ。もし、そんなことができるとしたら……それは、伝説の"真実の後継者"だけのはず。あんな伝説など、もはや、おとぎ話も同然。何を恐れている。我が国を根幹から変えてしまうあの真実を知られるわけには……)」


 思考が不安に押しつぶされそうになった瞬間……

 空気が震えた。なにかが爆発したような衝撃波だ。しばらくしてから、爆発音がとどろき始める。訓練中の事故か。一瞬そう思ったが、すぐに思考を切り替えた。ここは戦場だ。私は最悪の場合を考えなくてはいけない。


 そうしなければ、判断が遅れる。

 敵の奇襲だ。そう思って、指揮をとらなくてはいけない。


「魔力攻撃です」

 誰かが叫んだ。やはりか。公爵家の軍が、先に仕掛けてきたんだろう。圧倒的な不利な状況の場合は、普通は守勢に回る。だが、あいつらはその常識を逆手にとって、攻めてきた。


「敵の奇襲だ。すぐに陣を立て直せ。奴らの狙いはここ本陣に決まっている。主力を中央に集めて、手厚い陣形を作る。時間との勝負だ。ぬかるなよ」

 まさか、直接仕掛けてくるとはな。おもしろい。戦場において、定跡よりも奇策の方が有効になることが多い。それがわかっている指揮官が敵にいる。


 相手にとって不足なしだ。おそらく、ミザイル公爵家の神童だろう。

 若き才能が挑んでくる。小僧が。生意気だ。叩き潰してやる。


血沸ちわ肉躍にくおどる。久しぶりに、楽しい時間になりそうだな」

 ケモノのような笑いが自分からもれた。

 ついに、戦争が始まった。


――――――――

ステータス


オーラリア=ミザイル

名門ミザイル公爵家の次男。

政治、軍事、学識すべてに精通している天才と呼ばれ、将来を嘱望されている。

過去に父と兄が不在の際に、領内で魔獣の大量発生事件が発生。若干12歳ながら、公爵家の代表として軍を率いて、初陣ながら魔獣たちの討伐に成功したことで、神童や若き天才という評価を不動のものにしている。

血のつながりはないものの、兄のことを慕っている。

兄のグレアは、自分ではなくオーラリアがダンジョンに落とされたら、一人で問題を解決していたはずと考えている。

(能力)左:現在/右:ポテンシャル

政治:90/98

武力:99/108

統率:93/120

魔力:88/95

知略:92/96

魅力:92

義理:99


(適正)

剣:S

騎:S

弓:A

魔:A

内政:A

外交:S

謀略:A


(特殊スキル)

・カリスマ(率いる部隊の士気と防御力up)

・疾風(進軍速度up)

・軍神


――――

次回の更新は3月12日(日曜日)を予定しています。

もしかすると日付をまたぐかも?

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