第57話 父親の本心

―公爵視点―


 後悔がないと言えば嘘になる。

 結局、息子の人生は、私のせいでボロボロになったしまった。一生後悔してもしきれない重い十字架を背負わせてしまった。


 政治家としての自分は、イブグランドとブーランの融和を目指すために、グレアを使ってしまった。グレアとナタリーがお互いにひかれあっていたことを理解している。息子と親友の娘が、幸せに添い遂げてくれるならと思ったことが何度もあった。だが、政治家としての立場がそれを邪魔してしまった。


 父親としての自分が優柔不断だからこそ。こんな悲劇が生まれてしまった。

 息子にも、娘のように思っていたナタリーにも申し訳がないことをしてしまった。後悔はずっと続いていてる。


 自分が政治家としての立場を優先して、ブーラン貴族との融和を優先して、息子と娘のようなナタリーの幸せを邪魔してしまったのではないか。いくら、国王に頼まれたからと言っても、息子と娘の幸せを奪ってしまった。後悔は深くなってしまう。


 私は父親として不完全だった。二人の気持ちを考えれば、大局的な正義なんて考える必要はなかった。グレアと娘の幸せを考えて行動するべきだった。


 それが悲劇を生んでしまったんだ。


 息子……グレアの死亡がわかったら……


 自分は責任を取るつもりだ。たとえ、命をつぐなうことになっても。


 結果的に、息子と娘を政治の道具に使ってしまった最低の父親だった。この悲劇を導いてしまったのは、私の責任だ。


「たとえ、すべてを失ったとしても、父親としてできることを子供たちにしていきたい。それが息子たちと娘に対する責任だ」


 この決心によって、グレアが行方不明になってからこれまで動いてきた。

 公爵という立場ながら、私情を優先しているのは領主失格だった。

 だが、父親としての贖罪しょくざいでもあった。


 ナタリーが息子を連れてきた瞬間、やはり神は運命を支持していると思った。私は神にさからった。二人は結ばれる運命にあったと思う。運命の女神にあらがった愚者おろかものは私だ。


 子供に対しては政治家や領主としてではなく、父親として振る舞うべきだった。

 それができなかった自分は、最低の父親だった。

 


「グレアっ!!」

 亡き妻に対して、私は心からびる。

 息子とナタリーの運命の絆の深さを痛感させられる。息子の姿を見て、生きていくれた幸せに泣き崩れる。息子の生存を心から信じてくれたのは、ナタリー以外いなかった。父親以上に息子を理解していたのは……息子を信じてくれていたのは……

 結局、父親としては、息子に何もできなかった。


「よかった。本当に……愚かな父を許してくれ。グレア。生きていてくれてよかった。私は……私は……」


「父上……」

 まだ、父親と呼んでくれる息子のことを愛おしく感じてしまう。この最低の父親をまだ……


「私はお前に父と呼ばれる資格は……」

 自分の迷いを息子に伝えてしまった後悔をおぼえながら、数年ぶりに息子のことを抱きしめた。思った以上にたくましくなっていた身体に驚きなら、息子の成長に驚いた。


「俺にとっては、父上以上に父親はいませんよ。ずっと会いたかった。俺は父上やオーラリア、ナタリーに会いたくて、あの地獄で生き抜いて来たんです」


 息子の純粋な気持ちに、思わず泣きそうになる。まだ、私のことを父親と呼んでくれるのか。


「すまなかった。すまなかった、私は息子の幸せを邪魔する愚かな父親だった」

 本心から息子に謝罪する。


「父上は、父上です。こうして、また会えたことが……俺にとっては幸せなんです」

 遠くで息子との再会を見つめていたオーラリアとアカネは、私とグレアの抱擁ほうようを見て肩に手をせて、無言の時間を過ごしている。


 世界を敵に回して、家族は本当の意味で家族になった。

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