第55話 グレア、英雄になる!?
「スーラ、援護頼むっ!!」
結局、俺たちは王都に向かうまで、魔物狩りをして過ごすことにした。
少しでも役に立ちたいと思って、王都に向かうまでは、魔獣狩りを受注していた。
今回相手しているのは、
魔獣狩りの途中で、近くの村に住む娘たちが襲われているのを目撃した俺たちは、すぐに救出に向かっていた。
スーラの身体が、触手を溶かしていく。だが、すぐに回復する。
『どうしよう、グレア。キリがないよ』
「主殿、娘たちは私にお任せください」
植物に絡められて、あやうく捕食されそうになっていた女たちはボールスの斬撃によって救出される。
今回はギルド協会の幹部は同行していない。だから、あの秘密兵器を使うチャンスだ。守護竜撃破のきっかけとなったあれを……
太陽石の魔石を左手で強く握りしめた。俺の左手は巨大な胴の長い竜に変化していく。原理はわからない。あの王国の守護竜との戦いで、突然身に着けた俺の切り札だ。なるべく使わないようにしていた。下手に注目を浴びたくはなかったから。
ボールスやマーリンが同じようなことをしても発動しないのに、なぜか俺だけは扱える。左手の竜は、天に向かって飛び、
この操作は簡単だった。考えるだけで、後は自動的に動いてくれる。
「焼き尽くせっ!」
守護竜を圧倒した巨大な火炎にあらがうことなどできない。巨大な攻撃は、地面すらエグり、
「カバーも不要でしたな」と笑っていた。
やはり強力すぎる。B級上位の脅威と言われている
「ありがとうございます、
村娘たちは、恐怖で震えていた。あと一歩助けが遅ければ、命を奪われていただろう。その姿が、追放された時の俺と重なる。
「大丈夫だ、俺たちが村まで送るから、今後はあまり遠くまでは動くなよ。最近、この地方には魔獣がたくさんいるようだからな」
2人の娘は、涙を浮かべながら俺にすがりついた。助けることができた命を目の前に、あのダンジョンでの経験が無駄になっていないことに、少しだけ嬉しく思う。あんな最悪な経験でも……
あそこで死んでいった人間たちの思いを、俺はつなげていくことができていると、実感できる。それはとても幸せなことだった。
※
「あれが1日でB級まで昇格した
「わずか数日で、魔獣の被害を激減させた救世主様だ」
「まだ、経験が少ないからB級冒険者だけど、実力はS級って噂だ」
「おい、知らないのか。たぶん、S級冒険者ライセンス持ちの人が、中央の特命を帯びて、身分を偽っているって噂だぜ」
「そりゃあそうだろ。あの騎士と魔術師なんて、どう考えてもオーラが違うよ」
「今日も
「あの
※
街を歩くだけでも、俺たちは噂される存在になっていた。あんまりよくない
中央に噂が流れる前にここを離れるのが一番だろうな。まぁ、明日には王都に向かえるわけだから、心配しなくても大丈夫だろう。
王都で父上に無事を報告し、ナタリーと会って再会を喜ぶくらいはしておきたい。
で、公爵邸にでも転移結晶を仕組めば、完璧だ。
俺が生きているなんてわかったら、きっとみんな驚くだろうな。2か月くらい会えていないけど、俺の事、ちゃんと覚えていてくれるよな。スーラやボールス、マーリン、ロッキーのこともきちんと紹介して……それから……
期待に胸が膨らむ。やっぱり、俺は家族が大好きなんだ。アカネや執事長にもきちんと挨拶したいけど……
そもそも、王都はどうなっているんだろう。
知りたいことがたくさんありすぎる。
※
「すでに、公爵家はお前のことを廃嫡にしている。逃げ場はないぞ」
※
あの
「(なにを怖がっているんだ。そんなわけはない。大丈夫だ。俺は家族に会うために今まで頑張って来たんじゃないか。皆を信じなくてどうする)」
再会が近くなったことで、少しだけ怖くなった自分の弱い気持ちを否定する。だが、婚約者に裏切られたことで、俺の心は傷ついていたようだ。
不安で押しつぶされそうになっていた。
そんな俺の元に懐かしいにおいが届いた。すれ違った女性から漂うその香りは、心を揺さぶる。まさか、こんなところにいるわけがない。
きっと再会が待ち遠すぎて、敏感になっているだけ。
でも、俺が振り返れば、きっと彼女は振り返る。
そんな予感が俺の頭を支配していた。
後方にある夕焼けに向かって、ゆっくりと振り返る。目立たないようにローブを被っていた彼女も同じタイミングでこちらを見ていた。目が合う。見間違えるわけがない。彼女だ。ずっと会いたかった女性がこちらを見て、泣きそうな顔で一言、つぶやいた。
「グレア、センパイっ……」と。
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