第50話 魔獣退治&王太子の夢(NTR要素アリ)
どうしてもと泣きつかれたので、しかたがなく俺たちは支部幹部たちと共に、魔獣退治に動員されてしまった。
正直に言えば、早く王都に戻って、家族やナタリーと会いたいのだが……
問題となるのは王都の城壁などをどうやって突破するかだ。
一度入ってしまえば、転移結晶の移動先に屋敷を加えればいいから、帰ることは簡単になる。冒険者身分になれば、その身分証を使って王都の関所を突破できるはずだが……
「あなたたちの実績では怪しまれて尋問されるわよ。いきなりC級に到達した実績ゼロの魔物使いなんて、情報局や王都防衛隊に不審者扱いされるだけ。わけありじゃなければいいけど、大丈夫なの? 魔獣退治はポイント高いからすぐに実績ポイント上がるわよ」
なんて、なかば脅迫されたらこちらも受けなくてはいけなくなってしまった。
「マーリン、そっちに2匹行ったぞ」
「了解」
正直に言えば、魔獣退治はそこまで難しい問題ではなかった。たぶん、ダンジョン内で俺たちが暴れすぎたせいで、浅い階の魔獣たちが外に逃げ出したんだろ。食料として狩っていた奴らがほとんど。今の俺たちにとっては、経験値稼ぎにもならない。
イノシシ型の魔獣は、すでに2体ボールスによって首を斬られて絶命している。残りの2体は、実力差に絶望して逃走しようとしたが……
マーリンの強力な魔力から逃れられるわけもない。そして、ここは地上だ。ダンジョンのように倒壊の心配もないので、強力な攻撃ができる。ダンジョン内ではドラゴンと戦った時以外は、中級魔力までしか使わないようにしていたせいでストレスが溜まっていたはずの奇術師は、自分の身体の後方に
逃げ出した魔物と周囲にいるまだ見ぬ敵を丸ごと吹き飛ばすつもりらしい。
念のためギルド協会もこの周囲は魔獣警戒ゾーンということで立ち入り禁止にしているそうだから、冒険者を巻きこむ心配もない。ロッキーにお願いして敵がエリア外に逃げないように分身を作り出して封鎖もしていた。
マーリンの本気がやっと見れるぜ。
「終焉の刻」
マーリンがそう叫ぶと、天空に巨大な
「グレア殿、うしろ」と協会幹部が叫ぶ。どうやら、運良く生き延びたクマの魔獣が忍び寄っていたようだ。もちろん、対策済み。クマの鋭利な爪がこちらに迫ったが、スーラの身体にすぐにカバーしてくれる。
『ざんねん、お見通しだよ』と相棒は笑って、モンスターの腕を溶かしそのまま身体ごと飲み込んでしまう。
俺はほとんど何もする必要がなかったな。
「圧倒的すぎる」
「まさか、1日でB級脅威以上の魔物たちを……」
「何匹殺した?」
「10匹以上」
「わずか数時間で、魔獣たちが壊滅……敵に回したくない相手とはこういう人間の事だろう」
「たぶん、B級冒険者昇格基準、達成しちゃいましたよね?」
協会幹部たちがぼう然とこちらを見ていた。俺はごまかすために苦笑いして、返答する。
さて、早く依頼を終わらせて、王都に
※
―学園(王太子視点)―
夢を見ていた。
父上に
次の瞬間、ローザは成長していた。お気に入りのドレスを着て、出かけていくのを見送った俺は政務に戻ろうと自室に向かおうとして、あの
グレアだ。
死んだはずのお前がなぜここにいる。そう聞くと、地獄の果てから戻ってきたんですよ、殿下なんて言って不敵に笑った。
「お兄様、助けてっ!!」と妹の声が聞こえた。慌てて振り向くと、妹は魔獣に襲われていた。騎士団員は全滅。俺は必死に魔獣に立ち向かおうとするものの、一歩も動けない。そして、最愛の妹は、巨大な魔獣によって、背中を引き裂かれた。
「いやだ、やめろぉ、ローザ」
「痛い、助けて、やめて」
魔獣は嫌がる妹をもてあそぶように、致命傷になるのを避けて、いたぶっていく。
「だめだ、やめてくれぇ」
目をそむけたくなるような
「頼む、助けてくれェ。妹だけは……」
俺は情けなくそう叫ぶと、グレアは「しかたがないなぁ」と指を鳴らして場面が変わった。
今度は妹は、鎖につながれて、弱っている。「助けて、お兄様」とまた、か弱い声で発している。やはり、今回も近づくことができなかった。数人の賊が妹を取り囲んでいる。
「おいおい、楽しませてくれよ。お姫様っ!」
お気に入りのドレスが破かれて、最愛の妹の肌が露出する。
痛ましい暴力の跡。「もう、やめて」と泣きながら
賊など奪ってはいけない王女のくちびるが奪われていく。
ローザは少しだけ嬉しそうな顔になっていた。
勝ち誇ったように振り返った賊のリーダーはグレアだった。グレアが妹に耳打ちをする。うなづき、美しい唇から絶望の声が発せられた。
「見ているだけで助けてくれないお兄様なんてもういらない。私にはグレア様がいればそれでいい」
聞きたくない。自分の人生がすべて崩壊するような……足元がぐらつく。
「やめろおおぉぉぉぉおおおおおおお」
脳が破壊されるような衝撃によって、俺の夢の世界が破壊されていった……
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