第51話 弟の思い&王子とソフィー(NTR描写アリ?)

―アカネ視点―

「アカネ大丈夫か。もうすぐ、父上たちと合流できる。頑張れ」

 オーラリア様は、私を心配してくれた。事実上、バランド局長と激戦を繰り広げたのは自分にもかかわらず、周りを心配する余力を残しているオーラリア様に嫉妬しっとすら感じられてしまう。もう追手は来ない。無事に公爵様たちと合流できそうだ。


 怪物。

 それがオーラリア様に抱いた私の率直な感想。


 グレア様は、人間的だ。情に厚く、周囲を幸福にしてしまう雰囲気を持った不思議な人。誰もが彼の自然な魅力にとりつかれてしまい、いつのまにか彼を好きになってしまう。


 対して、オーラリア様は、機械的。彼は完璧すぎる。あらゆる分野に才能を発揮し、人を導くカリスマ性や才能を持っている。


 でも、彼を見ていると自分と同じ種族とは思えないほど完璧。だから、兄上のように無条件で信用できる人ではなかった。他の人にプレッシャーを与えてしまうほどの完璧超人。そして、気配りもできるから、周囲は彼と接するだけでコンプレックスを感じてしまう。


 包容力があり、自分の不出来すら許してくれるグレア様に対して……

 オーラリア様は、ある意味で恐怖を植え付ける存在でもあった。


 ただし、お兄様であるグレア様は、そのとげとげしい弟君の才能すらも包み込んでいた。王国の将来を背負うように期待されていたオーラリア様と同等の目線に立てるのは兄君であるグレア様しかいなかった。


 性格が正反対のおふたりは、とても仲が良かった。

 グレア様は、オーラリア様のことをとても可愛がっていた。長男にもかかわらず、一切の私欲もなく「領地や領民のためには、オーラリアが当主になった方がいいのにな」なんていつも言っていた。弟の才能を高く評価して、素直に賞賛していた。


 対して、オーラリア様は、自分にないものを持っていた兄君に憧れていたように思える。誰に対してもフラットで、圧倒的な包容力を持った彼に対して、唯一劣等感すら抱いていたように思える。


「兄上はいつも俺のことを評価してくれるけど……兄上の器は、常人レベルじゃないよ。人の上に立つのは兄君であって、僕のような小賢こざかしい人間じゃない。僕は、兄上のような大器に仕えるために生まれてきたんだと思う」

 普段は、"俺"という一人称を使うのに、いつのまにかお兄様のことを語る時は少年のように"僕"という呼称に変わってしまう二人の関係を私は微笑ましく見ていた。


 オーラリア様のような才能を持って生まれてきた人間は、傲慢にごうまんになりやすいはずなのに、自分を一歩引いて見ることができていたのは、グレア様の人柄が大きいのだと思う。


「アカネ、僕は最愛の兄上を苦しめたやつらを決して許さない。いつか、やつらには相応のむくいを受けさせてやる」


「はい」

 兄上に対する愛情を込めた言葉に、彼がひとりの人間だったことに気づかされる。


「でもね、こんな絶望的な状況でも不思議なんだよね。グレア兄さんが死んだなんて思えないんだよ。どんな方法を使ってでも、兄さんは生き残ってくれている。僕を残して死ぬわけがないし。そもそも心配しなくても大丈夫なんて思えちゃうんだ。不思議だよね。。僕は兄さんを家族以上に運命を感じた関係だと思ってしまっているんだから」


 ※


―学園(ソフィー視点)―


「殿下、大丈夫ですか?」

 悪夢でも見ていたんだろう。殿下は脂汗あぶらあせを流しながら、絶叫していた。

 目を覚ましても、ここが現実ではないようにきょろきょろしている。


「ここは……ローザは……」

 目の焦点が合っていない。やはりショックで現実逃避しているんだろう。

 公爵閣下とナタリーさんが王国への反逆を決意した。


 その事実を知った時、自己嫌悪に心が乱された。

 私のせいだ。グレアだけじゃなく、二人の人生を狂わせてしまった。


「(最低だ、私は……でも、こうなってしまったらもう引き返せない。もう落ちるところまで落ちるしかない)」


 目を覚ました殿下に対して、慈愛じあいの気持ちを込めて見つめる。


「ローザは無事だよな。さっきの夢なんだよな」とすがるように声をかけてくる。


「殿下」

 私は首を横に振る。


「嘘だ。嘘だと言ってくれ、頼むソフィー」


「もう、私たちには、お互いしかいないんですよ」

 その声を聴いた時の絶望は、私の心の写し鏡だった。


「何を言っているんだ、ソフィー?」


「こういうことですよ」

 私は強引な形で、殿下のくちびるを奪う。一緒に落ちるところまで落ちましょうと誘うように激しいキスをした。


「ローザは……ローザは……」

 それでも彼女のことを思って、すがりつくように腕を握ってくれる。愛おしい。


「もう、どうでもいいじゃないですか。私には殿下しかいない。殿下には私しかいない。それで……いいじゃない」

 彼の右手を、自分の胸に誘導する。ごつごつした男の手を感じる。


「殿下……愛しています。私がすべてを忘れさせてあげる」

 私は誘うように本能に訴えかけた。理性をかなぐり捨てて、動物になったかのように……


「抱いてください」

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