第48話 冒険者になったグレア&天才弟無双
こうして、俺の冒険者試験はあっけなく終わりを告げた。
C級以上の冒険者に勝つことができたので、合格。本来なら少しでもいい勝負ができれば合格できるらしい。駆け出し冒険者は、登録試験で先輩冒険者との実力との差を見せつけられて、根拠のない自信がぐらつくまでがお約束らしいが……
「おい、新人。どこでそんなに強くなったんだっ!?」
「俺とパーティー組んでくれよ。もうすぐC級合格できるんだ。頼む、助けてくれ」
「いや、俺が先だ。こいつほどの実力なら組めば簡単に報奨金が高い魔物を倒すことができる。これで俺は億万長者だ」
人の波に押しつぶされそうになっている。さっきまで笑っていたはずの冒険者たちが、手のひらを返してすり寄ってくる感じに苦笑を禁じえない。しかし、まいったな。王国の目があるから、目立ちなくない。
そんな風に困っている俺の腕を受付嬢さんが握り、群衆から救出してくれた。
「皆さん、今回見たことは決して口外しないようにしてください」
クールなはずの彼女が、なぜか怒気を強めていた。
不満の声があがる。
しかし、彼女は力強く続ける。
「最近、この地方に凶悪な魔獣が大量発生しているのはご存じでしょう。そして、数日前、協会本部は我がギルドに通達を出しました。本部からS級相当の冒険者を派遣すると。ただし、彼もしくは彼女は、とある事情から正体を隠さなければいけないのです。なぜなら、協会的に本来存在しない裏の最高戦力。国家機関への対抗のために協会が
えっ!?
なんか、俺完全に勘違いされていないか。
「そうか。だからお供の剣士と魔術師は
「あのふたりが誰かの下につくような器じゃないもんな。迫力でわかるぜ」
「マリオさんが震えていたのも、それなら納得がいくぜ」
「たぶん、手加減してあの実力だぜ。俺たちなんて、たぶん一瞬で消される」
群衆たちは、白い顔でうなずいた。秘密を絶対に漏らさないように覚悟を固めているように見える。いや、そもそもS級冒険者なら、ここでライセンス取得しなくてもいいじゃん。皆気づけよ。
「たぶん、あのライセンス取得も国家機関をだますための何かの偽装工作なんだな」
「離れようぜ。あまり深入りすると聞いちゃいけないことを聞いて消されるかもしれない」
その言葉をトリガーにして、少しずつ群衆は解散していく。安心してもいいものか。不安に思ったほうがいいのか。
受付嬢さんは先ほどと同じように冷ややかな表情に戻っていた。
「これでカシ1つだからね、新人冒険者さん?」
冷たい目線が俺を貫いた。
「えっ」
「さっきの話は嘘よ。そうしないと、訳ありのあなたにとって都合が悪いと思ったから、それっぽい話をでっちあげたの。感謝して」
「あ、ありがとう」
「感謝ついでに、ひとつ私のお願いを聞いてくれないかしら?」
悪徳商人のようにぎらついた目でこちらを見つめる受付嬢は、冷たく笑う。断れば、相応の対価を払わせると脅しているように見えた。
※
―王都(アカネ視点)―
「おやおや、まさか弟の方が出てくるとはね。簡単ではないことも起きるものだ」
老人から一瞬焦りと
「おや、面白いことを言うな、老人。あんたが焦るなんて、こっちの勝ちが確定したようなもんだろ」
「グレアと公爵を始末しても、お前だけは王国に仕えて欲しかったのだがな。残念なことだ。いずれは、近衛騎士団、そして、情報局を任せることができる後継者にしたかったのに」
「おいおい、勝手なことばかり言っているんじゃねぇぞ。お前たちなんか相手にしたくないから、俺は留学したんだよ。地位にも、名誉にも、俺は興味はない。お前たちは兄さんが見せてくれた希望以上のものを見せてはくれなかったんだよ。古臭い価値観と王族への忠義。そんなものに縛られるだけの人生なんてまっぴら御免こうむりたい」
オーラリア様は、ゆっくりと老兵に近づいた。
「わしのすべてを否定するのか。この若造がっ!!」
「若造ひとりに否定されるなら、それだけお前の人生が薄っぺらいものだった証拠だろ」
目に見えない速さで、お互いの剣がぶつかりあった。局長の猛攻すら、天才は簡単に受け止めた。あの老人は、筋肉の動きや身体の重心移動で、未来予知のような戦闘ができる。普通なら勝てるはずがない。
そう普通なら……
しかし、相手をしているのは、王国始まって以来の天才と呼ばれているオーラリア様だ。普通なんて
「すごい。あえて、素人のような動きを混ぜて、混乱させてる……」
局長の戦闘スタイルは、長年の経験を生かしたカウンター重視のスタイル。敵の動きをよく見て、それに対応する最善手を見つけて動いていく。しかし、そのスタイルには弱点があった。
経験にはない、合理的ではない動きは、計算できないことだ。
剣を使って二撃目を放つタイミングであえて、回避行動を入れる。
軸足をあえて不安定にさせることで、攻撃の角度を変えて、老人の対応を遅らせる。何とか対応したとしても、自信を揺さぶり、経験から来る直感を無力化させることができる。
経験を失った老人は、体力に勝る若者への対抗策が無くなる。
かつての老雄は、自分の足元を揺さぶられるような感覚に陥っていく。
着実に敵を追い詰めていたオーラリア様は、私の前に立つとポツリとつぶやく。「潮時だな」と……老兵はかなり消耗している。いまなら、チャンスのはず。そう思った瞬間、私の身体はひょいっと弟君に抱き寄せられた。
「えっ?」
「撤退だ。あいつは消耗している。これで追手はいなくなった。早くしないと、王族の直轄地を抜ける前に朝になる。おそらく、朝になったら関所などに大量の兵士があつまるだろう。だから、あの局長さんはああいう戦闘スタイルを貫いているんだよ。自分が死んでも、ここで俺たちを足止めできれば、最終的に勝つのは王族だとな」
「そんな……」
たしかに、私との戦闘の時も、積極的には攻めてこなかった。私たちが帰って来なかったら公爵様とナタリー様は非情になりきれず、撤退を遅くする可能性が高い。あいつはそこまで考えていたのか。
「だが、夜中の内に、敵の勢力範囲外にでてしまえばこっちのもんだよ。唯一、追撃できそうな情報局長には余力も残ってないんだからな。逆に、あいつを倒そうと深入りすれば、撤退のチャンスを失うことになる……」
こちらの意図に気づいた老兵は、叫んだ。
「逃がすかっ!」
まだ、戦意が衰えない老人はこちらに向かってくるが……
彼は、私の胸ポケットから爆発の魔石を取り出して、老人に投げつけていた。意表を突かれた敵は爆風を食らい弾き飛ばされる。
「今の内だ。走るぞ、アカネ!!」
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