第38話 不運なダンジョン監視員&背徳のワイン(NTR要素あり)

―死の迷宮(名もなき情報局員)―


「ああ、暇だな。まったく、なんでこんなところでずっとあのダンジョンを監視しなくちゃいけないんだよ。だいたい、監視対象は死んだんだろ。念のためとはいえ、2か月監視継続はやりすぎだろう。お偉いさんのやることは、わけわからんよ」

 林の中で人目につかないように、ダンジョンの入口を監視していた。俺と合わせて4人の仲間が、監視を続けていた。極秘ミッション。よって、監視対象がグレア=ミザイルであることは、幹部以外は俺たちしか知らされていないようだ。


 俺たち4人は2班にわかれて、ダンジョン入口を見守り続けている。さすがに、24時間ぶっ続けで、監視するのは難しいので、8時間交代で別の班と交代することになっていた。


「早く酒場で一杯やりたいよな」

 相棒は、枝を揺らしながら、ひまを持て余しているようだ。


「おっ、また洞窟から怪物が外に出て来たぞ。今月何回目だよ」


「どうする、さすがに異常アリと上に連絡するか?」


「いや、やめておこう。俺たちの任務は、このダンジョン入口から対象が出てこないか監視することだ。この領地の治安維持じゃない。面倒な報告書を作る手間もあるだろ。休み時間にそんなことしたくねぇよ」


「それもそうだな。だいたい、俺たちからすれば、この地域の領民がいくら死のうが関係ない。下手にさわぎを起こして、俺たちの存在がバレれば、それこそ大問題だ。犠牲者はたんに運が悪かっただけ。エリートの俺たちには、何の関係もない」

 俺たちは下品な笑いを口からこぼす。


「魔物退治みたいな危険なことは、冒険者と軍の兵隊さんに任せておけばいいよな。大変だよな、運が悪いやつら。貴族や王都に生まれなかった自分たちの不運を呪うしかねぇよな」

 また、笑いあおうとした瞬間。俺たちの身体は宙を舞った。枝がぽっきり折れていた。いや、折れているというよりも鋭利な刃物で切断されたように綺麗になくなっていた。俺たちは地面に叩きつけられる。


「いてぇ、何があった……」

 後方から足音が聞こえた。あわてて、目を向けると、白銀の鎧をまとった騎士が立っていた。いや、よく見ると……


「こいつ首がねぇ」

 首無騎士デュラハン。最上級アンデッドモンスター。現世に強い未練を持った一流の騎士が変化したアンデッドだ。特に上位種は、A級クラスの冒険者とも互角に戦えると聞く。


「だめだ、逃げるぞ。こんな怪物に勝てるわけがねぇよ」

 相棒は、早く立てと俺をせかす。


『お前たちの理論なら、運が悪かったから仕方がないだろ。せっかく、エリートに生まれたのに、こんな最期は悲しいよな』


「ひぃ」

 言葉の節々から強い殺意を感じる。


『でも、そうやっていろんな人間の人生を狂わせてきたんだろう。自分が被害者側に回るなんて考えたこともなかったんだろう。それが、お前たちの寿命を縮めたな』

 冷徹な言葉が聞こえて、首筋が熱くなる。目線がなぜか、自分たちの身体をとらえていた。首無騎士デュラハンと同じように、首を失った人間の身体を……


『ロッキー、グレア殿に伝えてくれ、目標は完全に沈黙したとな。近くに監視員はいない。これでダンジョンから脱出できるぞ』

 その言葉を聞いて、俺たちは死の間際に、作戦の失敗を自覚した。


 ※


―学園(王太子視点)―


 この女もかなり堕ちたな。ソフィーの美しい裸体を見ながら、ワインを口に含む。彼女にもグラスを渡した。彼女は、ワインはあまり好きではなかったはずだが……俺たちの関係が進むにつれて、少しずつ飲めるようになっていった。その様子が、他人の女を自分色に染めているようで楽しかった。


「おいしいですね、さすが殿下のおススメボトルです」

 びたような声を出しながら、ワインをたしなむ女の香り。とても魅力的な状況。


「たしか、ワインは嫌いじゃなかったかな?」

 そういって、彼女の身体をさわると、「もぅ」と短い声で俺の右手を肩で受け入れた。


「殿下が無理やり飲ませるからですよ。お酒の味は、あなたが教えてくれたんです。グレアに匂いがバレないようにするの、大変だったんですからね」

 その言葉にどこか背徳感を感じているようで、息が荒くなっている。


「それも楽しんでいたんじゃないのか、悪い女だ?」


「……殿下、公爵閣下たちの動きは大丈夫ですか。グレアが死んだのがバレたらいろいろ大変なことになりますよね」


「安心しろ。公爵は完全に情報局の監視下にある。もし、怪しい動きをすれば、情報局には殺しの許可をしている。秘密裏に暗殺されるさ」


「そう……ですか」

 一瞬、暗い顔になるのを俺は見逃さなかった。どうやら、この女は俺のものになってもかつての婚約者とその家族に対する未練を残しているみたいだな。


 それが完全になくなって、堕ちきった時……


 この元・優等生はどんな顔をしているんだろうな。それを見る時も、もうすぐだろう。


 その表情を想像しただけで、気持ちは高ぶる。俺は力強くソフィーを抱きしめる。そして、心にもない愛の言葉を口ずさむ。


「愛しているよ、ソフィー。ずっと、一緒にいてくれ」

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