第36話 グレアの夜&ソフィーの自我崩壊(NTR要素アリ)

 さて、どうするか。皆参加した宴は終わりを告げて、ボールス以外は眠りに落ちている。結局、この聖域は娯楽もないので、最大の楽しみである夕食が終わると、ただ会話をして寝るだけの時間になってしまう。


 俺は興奮で眠れない。まさか、本当に王国の守護竜を倒すことができるとは思わなかった。今頃になって、自分たちの冒険の成果をみしめる。


 ここまで強くなれば、地上で王太子たちに見つかったとしても対処できるだろう。

 少なくとも最初のように情報局にいいようにされるレベルではなくなっているはずだ。抵抗はできる。それを考えれば、地上に出て様子を見てみたいという欲求も心の中に生まれていた。


 家族が俺をどう思っているのか。怖いけど、確かめてみたい。少なくとも父上が、俺の廃嫡はいちゃくを認めるなんて、正直に言えば信じられない。おそらく、政治的な圧力があったんだと思うけど。


 家族に会いたい。留学中の弟のオーラリアには会えないかもしれないけど、父上とナタリーに会って無事を報告したい。たぶん、皆俺を心配してくれている。二人の顔をちゃんと見てみたい。あの日、ここに落とされたせいで、もう会えない覚悟をしていたのに、俺は欲張りだ。でも、ここで俺を慕ってくれる仲間たちもできた。友達を家族に紹介したい。ナタリーは、幼馴染の後輩だけど、もう家族の様なものだし。ここに来てから、俺が会いたいと思うのは父上と弟とナタリー、あとはメイドのアカネや執事のセバスチャン。


 血は繋がっていなくても、ナタリーや執事、メイドたちは家族の様なものだった。俺は母上が、小さいころに亡くなったから、家の者たちが母親代わりだったんだなとよくわかる。このダンジョンで、皆に可愛がられていた夢をよく見ていた。目覚めなければいいのにと、何度も考えていた。そして、その希望が裏切られたとき、俺の目には涙がまっていた。


 皆に会いたい。

 

 転移結晶もあるので、自由にこの聖域に戻ってくることができる。だから、地上に出て、家族と接触するのは最高のタイミングだと思う。ひとつ気がかりなことは、俺のワガママに仲間たちを付き合わせていいのかという不安くらいだ。


 そして、このダンジョンに隠されている秘密を解き明かしたいいう欲求もあった。この王国の腐敗も、隠された真実に起因しているような気がする。俺は、今までこの国を内部から変えようと思っていた。だが、この国の腐敗は思っていた以上に根深いものがある。この国を変えるためには、かなり強い衝撃が必要になる。その衝撃は、このダンジョンに秘匿ひとくされる真実の向こう側にあるんじゃないか。


 だから、誰もなしえていないこのダンジョン攻略達成を優先するべきかもしれない。俺と仲間たちならそれができる。


 そんな思いを抱きながら、夜がふけていく。元・婚約者への気持ちは完全になくなっていることを自覚していた。ソフィーの代わりに思い浮かべる顔は、ナタリーを含む家族ばかりだった。


 ※


―学園―


 久しぶりに殿下は私の元に来てくれた。アンリたちの件で、複雑な気持ちを抱いていた私は……


 殿下が、部屋の前に来てくれたことで、嬉しくなって、嬉々として中に導いていた。


「やっぱり、殿下は私を忘れていなかったんですね!!」


「忘れるわけがないだろう」

 そう言ってもらえるだけで、自分の女としての部分に火が付いたように、熱くなる。


「ありがとうございます」

 私は彼の手を力強く握りしめた。人肌の体温がゆっくりと伝わってくる。この体温の交換が、私たちの深い関係を象徴しているようで心地よい。


 私は浅ましくも彼が喜ぶことをする。つないだ彼の右手を、自分の胸部に誘導する。自分の女としての部分を彼にぶつけて、誘惑した。


 いつもの私なら絶対にやらない。でも、この気持ちからは逃げることはできない。侯爵令嬢のような高い身分の人でも、私たちの関係には逆らうことができないのだから。もう、私には彼しかいない。誰も後ろ盾がいない私は、生き延びるためには、殿下に愛されるしかない。


 彼に、愛されるしか、もう手段はない。

 だから、私は自分を変えることにした。彼が好きな浅ましい女のように。グレアの婚約者だった時は、軽蔑けいべつしていた女たちのように。プライドを捨てて、喜んでもらえる女を演出する。


 だって、私にはもう何も残されていないんだから。


「ずいぶんと積極的だな」


「あら、お嫌いですか?」

 こういう風に余裕を持った受け答えが、好みだ。少し生意気な自信家が、彼と二人きりの時は、徹底的に甘えて慈悲をねだる。殿下は、それが好きだと理解している。


「聞かなくてもわかっているだろう」

 たくましい男の人の部分をにおわせる声で、私の身体は震えた。彼が欲しい。本能が私の理性に訴える。


「ええ、もちろん」

 小悪魔的に笑う私のくちびるは、情熱的なキスで奪われた。もう絶対に引き返せないなら……


 私は、この状況を思う存分楽しもう。そして、今まで虐げられた自尊心を満たせばいいじゃない。グレアに対する罪悪感も心地よいスパイスに変わる。この時間だけが、私の幸せ。


 もう、何もいらないわっ!!

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