第30話 王国の守護竜&ナタリーの仮説

 竜が地上に降り立つと、すさまじい風圧が俺たちに襲いかかってきた。

 敵の攻撃に備えて固まっている隊列のバランスを崩すのが狙いだろう。ボールス以外の俺たちは、完全にバランスを崩してしまった。そして、頭がいい深紅の巨竜はそれを見逃さない。


 首がのけぞるように動く。巨体が震えた。そして、巨大な火炎の塊が、俺たちに吐き出された。


 グループ間でほとんど距離を取っていなかった俺たちは、火の球に飲み込まれようとしていた。本来であれば、こういう広範囲火炎攻撃が得意な相手は、ある程度分散して被害を減らすのが定跡。だが、俺たちはあえて固まって戦おうとしている。


 なぜなら、最強のイージスが、2体いるからだ。

 火炎攻撃に対しては、白銀の鎧に身を包んだボールスが俺たちの前に立って、耐えてくれる。


 巨大な火炎をボールス一人が受け止めた。巨大な火炎も、聖なる白銀を焼き尽くすことはできない。


 火炎の中から、一筋の剣撃が放たれる。空気と大地を切り裂く強力な攻撃が、竜の左前脚を切りつけた。青い血が一気に噴き出る。低く巨大な絶叫がフロアにとどろいた。確実にダメージを与えている。


 続けざまに、マーリンの魔力攻撃がドラゴンの胴体に直撃していく。火の矢ファイヤーアローもくらっていた巨体は続けざまのダメージによってぐらついている。さらに、ロッキーの分身たちが一気にドラゴンの脚に殺到した。すでに、大きなダメージを負っている左脚は崩れてバランスを崩した。


 苦しまぎれに毒が塗り込まれた爪で、俺たちを弾き飛ばそうとするが、それはもう一人の最強の盾で防がれる。スーラだ。プルンとした緑の巨体が、物理攻撃を無効化させる。毒は同じ毒を持って制す。これでドラゴンの遠距離・近距離どちらにも対処できることが分かった。あとは、この前の青い巨人モンスターを倒した時のように攻撃を封じ込めて、連続でダメージを与え続けていけばいつかは倒すことができるはず。


『ふん、なかなかやるな。まさか、ここまでダメージを与えられるとは、思わなかったぞ。あの戦争の時にブーランの英雄を殺した時もここまではやられなかった』


 突然、人語を話し出した深紅の巨竜に俺たちは一瞬、戸惑とまどって攻撃が途切れてしまう。


『ふふ、おもしろいやつらだ。スライムとアンデッドの特性を生かして、余の攻撃を防ぎきり、後方の者たちが遠距離攻撃でダメージを蓄積させるか。たしかに上手い作戦だな。余が普通のモンスターならこれで倒せていただろう。だが、残念だ。普通の怪物ではないからな、余は……』

 そういうと再び火炎攻撃を行う準備を行い始める。無駄だとばかりに、ボールスは隊列の最前線に立ち俺たちの盾になろうとしてくれた。だが……


『馬鹿の一つ覚えじゃな。そんなものこうすれば無駄になる』

 巨大な火球は、天を向いたまま、吐き出された。思わぬ方向に向けて打ち出された火球は、上昇していくと次第に形が崩れていく。そして、花火のように上空で爆発する。まるで、火山の噴火のように無数の火炎が俺たちに降り注いだ。これでは、ボールスが代表として攻撃を防ぐことはできない。致死量ではないものの、直撃すれば大きなダメージを食らってしまうだろう。すでに、ロッキーの分身の大部分が分裂した火球が直撃して、形を失っていた。


 マーリンの悲鳴が聞こえた。くそ。このままでは全滅だ。そして、俺の近くにも火炎が迫っていた。猛烈な熱さがゆっくりとこちらに近づいてくる。


「グレア殿っ。ご無事ですか?」

 ボールスがかばってくれた。


「ああ、ありがとう」


「皆を集めて、撤退してください。皆が逃げる時間くらいは、稼いでみせます」

 その悲痛な覚悟に、かつてボールスの記憶でみた女魔術師と同じような決心を感じた。


「そんなことができるわけ……」


「そうしなければ、全滅です。ご安心ください、私はアンデッド。絶対に死ねないのです。すきを見て逃げ出しますよ」

 だが、俺はそれが嘘だと分かった。この巨竜は、ボールスを何度も殺し無限の痛みを与えるだろう。死ねないことを後悔するような地獄の苦しみ。それが、仲間にふりかかるのはわかりきっていた。


「しまった……」

 ドラゴンの攻撃が迫ってきていた。ボールスは瞬間的に盾を使って攻撃を防いだものの、あまりの強力な攻撃によって吹き飛ばされてしまった。


 俺は何とか攻撃を避けることができた。周囲を見渡すが、自由に動けるのは、俺以外だとロッキー本体くらいしかいなかった。スーラですら、火炎攻撃によってダメージを受けたんだろう。いつも以上に鈍い動きになっていた。ボールスは、吹き飛ばされてもすぐに体勢を立て直して、ドラゴンと交戦状態に入った。


 どうする。このまま負傷者を集めて、聖域に転移するか。ボールスを見捨てて……


 いや、ダメだ。そんなことをすれば、俺は絶対に後悔する。王太子のような自分だけが良ければ、他人はどんなふうになっても構わないような思考になってしまうのが怖かった。ずっと、皆には助けてもらっていた。俺は何も返すことができていない。ここで逃げてしまえば、ずっと助けてもらうだけの人生になる。


 力が欲しい。

 自分の大事な人を守れるくらいの力が欲しい。

 こいつらを絶対に助けられる力が欲しい。


『大丈夫。あなたには、力がある。魔石が力を貸してくれる』

 スーラと最初に出会った時に聞こえてきた女の声が頭に響いた。


 俺は言われたままに、太陽石を手につかんだ。まばゆい光が俺たちを包み込む。


 ※


―王都(ナタリー視点)―


 また、おじさまと私は馬車で密会する。情報局は、あの後完全に沈黙した。マルスの件は上手く対処できたということだろう。落ち着くまではあえて顔を合わせないようにしていたから、私たちは数日ぶりに顔を合わせた。私がおじさまを呼びだしたんだ。


「センパイの件、なにかわかりましたか?」


「まだ、微妙なところだね。だが、知り合いの冒険者協会のギルドマスターには協力を依頼したよ。彼らは、こころく引き受けてくれた。彼らは、基本的に政府と仲が悪いからね」


「よかったです。王国と冒険者ギルドの不仲をうまく利用したんですね」

 さすがは、公爵様ね。政府側の人間だったのに、冒険者協会とも太いパイプを持っている政治力。味方でよかった。


「ふふ、私は内政官だったから、そこまでじゃないんだ。ギルドと治安部隊や情報局、軍隊は犬猿けんえんの仲。自由に動く彼らを、奴らは面白く思っていないんだよ。政府側のラインではない情報網を彼らは持っているからね。取り締まる立場の者には、危ない集団だ」

 自由に生きる冒険者は、秩序維持を最優先する政府組織には、面倒な立場の人間だろう。だが、冒険者はS級・A級冒険者という強力な戦力を保有している。下手な軍隊であれば、ひとりで壊滅的なダメージを与えることができるのが最上級冒険者たちのすごいところね。


 災害級のモンスターたちが突然発生した場合、冒険者ギルドが協力してくれなければ、国家の危機でもある。だから、冒険者の権利は、この王国内でも強く守られていた。治安当局はそれもおもしろくないみたいだけどね。


「それで、ナタリー。なにか、考えがあるんだろう?」


「ひとつ、仮説があるんです。その地方である変化が起きている。そして、その地域は、センパイが誘拐された方向とも合致している。だから、冒険者協会にその地方を重点的に探して欲しいんですよ」

 少しだけ驚いた公爵様は、すぐに落ち着いて言葉を発する。


「それで、仮説とは?」

 私は自分の考えた説を披露ひろうする。


―――――――

ロッキー(土人形)

死の迷宮で生まれた土人形の怪物。土人形は、魔力や残留思念がもとで生まれるため、親や仲間などはいない。しかし、ロッキーは寂しがり屋で、長年仲間を欲していた。

人間の冒険者パーティーなどを遠目で見つめて、仲間を作りたいと思っていた。よって、自分の分身を量産することで、家族のようなものを作ろうとしていたが、分身は分身であり、自分とは違う存在にはなれなかった。

仲間が欲しいという思考から、通常の土人形よりも多くの分身を作り出すことができる。分身は、すぐに形が崩れてしまうが、本体は攻守ともに優秀。

本人は会話などはできないが、グレアたちのことはやっとできた大事な仲間で執着心の様なものも持っている。


(能力)左:現在/右:ポテンシャル

政治:1/3

武力:78/86

統率:95/100

魔力:0/0

知略:73/81

魅力:60

義理:83


(適正)

近接戦:A

騎:E

弓:E

魔:E

内政:E

外交:E

謀略:E


(特殊スキル)

・分身作成

・指導力

・味方ステータス補正アップ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る