第29話 ドラゴンの元へ&ふたりの朝(NTR要素アリ)

「じゃあ、皆行くか。決戦だっ」

 地下15階。イブグランド王国に力を貸すドラゴンがいるフロアへ。

 

「ええ、早く奴を討伐して、ワインの続きを飲まなくてはいけませんからな」

 仲間たちを殺されたボールスは殺気だちながらも、なごやかに笑う。昨晩、2人で飲んだワインは半分残してある。今晩に、祝杯をあげるために。


「ワインですかっ!! ふたりだけでずるいですぞ」

 マーリンは少しだけむくれて、笑った。この奇術師も酒が好きらしい。いや、魔物って酒を飲むんだな。


「わしは、イブグランド王国の兵士に、わざわざ酒を持ってきてもらっていたほどの酒好きですぞ。ワインは、魔道研究にも使える良い酒で……そもそも、ウィスキーやブランデーなどの蒸留酒は、魔道研究の副産物として生まれてたものですからな……」

 マーリンがいつになく饒舌じょうぜつだった。


『ボクも飲めるかな~?』

 スーラも加わる。さすがに、ロッキーは飲めないだろうけど、スーラはどうなんだろうな。


「おいおい、お前たち、勝った気になるのが早すぎるだろう。まだ、始まってもないんだぞ」

 俺が注意すると、笑いが止まらなくなった。


「じゃあ、行くぞ。みんな……全員、生きて、ワインで祝杯をあげるからな」

 皆が力強くあごを引く。首がないメンバーの方が多い気もするが。


 転移結晶を発動し、地下15階へと続く階段をゆっくりと降りる。


 ボールスが言っていたように、地下15階は地上とつながっているエリアだった。吹き抜けのようになっていて、日の光がわずかにし込んでいる。


 この地下生活でずっと見たかった太陽が、さんさんと輝いていた。嬉しくて、思わず泣きそうになった。だが、ここは戦場だ。ボールスの時も、急にドラゴンの奇襲にあい、パーティーが半壊したと聞いている。すでに、マーリンは索敵魔力サーチングを発動させている。さらに、ロッキーは分身を数百体作り戦闘モードだ。


 この吹き抜けには、壁にいくつもの小さな穴が開いていた。おそらく、どこかにドラゴンがいるはずだ。かつてのボールスたちは、その強襲にやられた。だが、こちらは対策済みだった。


「見つけた。くらえ、火の矢ファイヤーアロー

 無数の火炎魔力が、洞穴ほらあなの一つの殺到する。あそこにドラゴンがいるのだろう。火炎による爆発によって、中が火に包まれた。獣の咆哮ほうこうがとどろく。大きな羽根の音が空中から聞こえてくる。


 あの量の魔力攻撃でも、ほとんどノーダメージか!?

 深紅しんくの巨竜は、悠然ゆうぜんと翼を使って降りてくる。どうやら、奇襲攻撃をする気はないらしい。しっかり、脚を踏ん張らなくては、咆哮の風圧で吹き飛ばされそうだ。


 王国の守護竜は、ここに降臨した。


 ※


―学園寮(ソフィー視点)―


 目が覚めると殿下は、私の横で気持ちよさそうに眠っていた。

 いつもは男性的な力強さを感じる殿下が、寝ている時だけは可愛らしかった。微笑ほほえましい。さっきまでは、恋愛的なときめきを感じた彼の身体は、今では少しだけ母性愛をわき立たせている。


 お互いに服も着ずに、力尽きたように眠りに落ちたみたいね。私も、最後はどうなったのか、覚えていない。ただ、幸せな時間だった。


 ※


「グレアのことは、全部忘れます。私にはあなたしかいないの」

「好きです、愛しています。婚約者だったグレアよりもずっと……あなたのことが好きです」

「私は最低の女です。だから、もうあなたしかいないの」


 ※


 昨日、自分が殿下に向けて発した言葉を何度も反芻はんすうする。そして、昨日の思い出を頭に焼き付けるように何度も思い出した。


 グレアやナタリーさん、マリーさん、両親のことを忘れるために……

 一瞬でも、嫌なことを思い出そうとしたら、彼との行為の記憶を思い出すために。

 そして、もう自分には彼しかいないという事実を身も心にも教え込むために。


 ずっと、この瞬間が続けばいいのに。もうすぐ朝だ。彼は、王太子という立場だから、ここに毎日来るようなことはできないと思う。今まではグレアの目を盗んで、密会していたから、彼がここに泊まることは初めてだった。長い時間、ずっと好きな人と会えることがこんなに幸せなんて知らなかった。


 グレアとはずっと一緒だったのに……

 私は、彼のことを恋愛対象としてみていなかったんだと、この時、初めて気が付いた。


 昨日のような幸せな時間を味わえるなら、もう誰が私から離れることも怖くなかった。私の心は完全に壊れているんだろう。でも、それはどうでもいいこと。だって、殿下が近くにいてくれるのだから。


 中庭のバラで痛めた右指がうずく。チクチクとした痛みが、私を理性の世界に戻そうとする。でも、そんなことで戻れるほど、私が堕ちた沼は浅くなかった。


「もう、戻れないのよ。あんな温かい場所には……」

 少しだけ肌寒く薄暗いこの場所から、私は逃げることはできない。その残酷な事実すら、恋の障壁のように感じられて、私の気持ちは燃え上っていく。


 そして、彼の左手に優しくキスをする。ブーラン貴族伝統の求愛する行為を。女性からは本来は結婚式の時にしかおこなってはいけない行為を……グレアにもしたことがなかった大事なキスを、私は殿下にささげた。



―――――

ボールス(首無騎士デュラハン・元冒険者のアンデッド)

 元・人間のアンデッドモンスター。生前は、20代でA級冒険者に昇格した怪物的な才能を持つ男だった。ただし、イブグランド王国とレッドドラゴンの策略にハマり、死の迷宮攻略中にパーティーは壊滅し、本人も口封じのために王国騎士団員によって暗殺される。死の際の絶望と怨念おんねんによって、アンデッド化し、自分たちのようなレッドドラゴンへの生贄を減らすために、死の迷宮地下4階で執拗しつように冒険者を狙い、冒険者を撃退していた。ただし、その行為は、冒険者に敗れた本人もアンデッドで死ぬことはできないため、死ぬ以上の苦しみをともなうものだった。

 生前から剣技の才能はS級に届き得ると評価されており、図らずも死後も冒険者との戦闘を経て、才能を磨くことになった。

 通常であれば、遠距離攻撃ができない戦士系タイプだが、強力な斬撃を放つことができ、遠距離攻撃にもある程度、対応が可能となっているオールラウンダー。

 グレアのことは、自分に似た境遇を同情している。あえて、主従関係を結んだことにしているが、実は彼のことを弟のように思っている。現状では、グレアの冒険者としての才能と器の大きさを最も評価している存在の一人。

 同じパーティーの女魔術士とは、戦友以上恋人未満の関係だったが、お互いに不器用だったため、両片思いの関係で終わっている。


(能力)左:現在/右:ポテンシャル

政治:15/17

武力:98/120

統率:91/100

魔力:0/0

知略:69/75

魅力:80

義理:90


(適正)

近接戦:S

騎:S

弓:A

魔:E

内政:E

外交:C

謀略:E


(特殊スキル)

・魔力・火炎攻撃無効化(※白銀の鎧による追加効果)

・指導力レベル4

・???2倍(※宝剣による追加効果)

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