第27話 スーラの過去&王太子とソフィー(NTR要素アリ)

―スーラ視点―


 夢を見た。グレアたちと出会う前の記憶の夢を。

 まだ生まれたばかりで、他のスライムと同じように青色だった。スライムの色が変わるのは、基本的に何かがあった時だけ。通常であれば、群れの中で暮らし、川など水辺の近くの森で、短い一生を終えていく。僕たちは基本的に最弱の存在だから。


 普通のスライムは殴られただけで、四散しちゃうくらい弱い。僕みたいな弾力性を持つ存在は異例だと言われたことがある。だから、人やほかの魔物を恐れて隠れて過ごしている。それが普通。


 でも、僕は普通じゃなかった。育ち方が変だった。みんなは生まれてから成長するまで身体は3センチくらいしか成長しない。でも、数日で20センチも伸びた。それだけでもう異形だった。


 でも、群れから孤立した最大の理由は……僕が強すぎるからだ。


 ある日、人間が住処すみかにやってきた。スライムの駆除は、冒険者の基本的な仕事。放っておけば、数が増えて、人間の子供が襲われるかもしれないから、定期的に僕たちは狩られる運命にある。でも、僕はその運命にあらがってしまった。


 人間たちが持っていたこん棒などは僕にとってはほとんど痛みがなかった。そして、逆に彼らを倒してしまったんだ。殺しはしなかったけど、身体をおおいかぶさって、窒息ちっそくさせて気絶させた。


 最弱のスライムが、大人の人間を倒した。その事実は、人間たちを非常に恐れさせたらしい。スライム族には、僕のように突然変異体が生まれることがある。そして、その突然変異体は、普通の魔物以上に人間には脅威になる。毎日のように群れは、冒険者に襲われるようになった。冒険者たちが、僕を狙うようになったから。


 そして、居場所を失った。僕がいれば、皆は冒険者に狙われて、危険な目にあうから当然。


「お前なんか、いなくなればいいのに」

「どうして、普通の弱いスライムになれなかったんだ」

「お前がいるからみんなが傷つくんだ」


 スライムは仲間同士ならすぐにテレパシーで気持ちが繋がる。人間同士のように、あえて言葉に出さないなんて器用なことはできないんだ。だから、僕は仲間たちの本当の声で傷つき、そこにはいられなくなった。


 群れから追放されるようにはぐれて、ひとりで生きるようになった。群れていないスライムは、色が変わる。水色から緑色に……一人でいろんなものを食べないと生きていけなかったから、自分を守るため身体は触れたものを溶かす液体になった。


 身体もどんどん成長する。でも、心はずっと痛いままだった。だから、ひとりになれる場所を探した。たどりついたのがこのダンジョン。僕はずっと、ここでひとりで生きるつもりだったのに。


 運命グレアに救われてしまった。

 まさか、また触れ合える仲間と出会えるなんて思わなかった。お互いに身体をぶつけあう仲間のしるしをまたできるようになるなんて思わなかった。


 だから、僕は今、最高に幸せなんだ。グレアと種族は違うけど他の4匹と、仲間になれて……


 ※


―王都(ソフィー視点)―


「殿下っ……」

 マリーさんに拒絶されて、絶望していた私のところに彼はやってきてくれた。その感動が私の女の部分を呼び覚ます。これは、運命。やっぱり、私には殿下しかいない。グレアじゃなくて、殿下が運命の人だったんだ。


 必死にそう思い込んで、自分の絶望を消そうとしていた。

 親子の縁を切られたことも、親友たちから失望されたことも、妹のように思っていた女の子に嫌われたことも、グレアを死に追いやった事実も……


 彼と出会っている時間は忘れることができるのだから。すべての絶望から、刹那せつな的に抜け出すことができる。


 私は、彼が部屋に入ってきた瞬間に抱きついていた。力を込めて、彼を放さないように……


 いつも以上に積極的な行為に少しだけ驚いた顔を見せて、そして、嬉しそうにポンポンと頭を叩いてくれる。頭の上から、足元まで快感とそれに従う多幸感に包まれた。嬉しさのあまり、身体の震えが止まらない。


 いつもだったら、彼の好きな赤ワインでも飲みながら、お話をするのが普通なのに。そんな余裕はない。もう、身体がどうにかなってしまいそうだった。


 忘れさせてほしい。全部を忘れさせてほしい。

 私は一言も発しないで、彼のくちびるを奪った。


「……っ。……っ、ハァ」

 短くいやらしい音が、部屋の中に響いた。もう、マグマのようにたまった感情は爆発してしまう。


 何度も何度も彼を求めてしまう自分が浅ましい。グレアの目を盗んで密会していた時とは、違う。もう、私には彼しかいない。


「今日はずいぶんと積極的だな。そんなに会いたかったのか?」


 私は、すぐにコクンと首を縦に振る。まるで、主人を待っている動物のような気持ち。


「なら、どうして欲しい? 言ってみろよ」

 一瞬だけ理性が止めに入る。でも、すぐに快楽への欲望がまさってしまう。

 どんな時でも、心の中にいたはずの大事な人たちがすべていなくなってしまった私は、本当の意味で獣に堕ちた。


「抱いてください。もう、私にはあなたしかいないんです。全部、忘れさせて」

 殿下は、にやりと笑った。

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