第25話 無双するグレア&後輩の気持ち

 先制攻撃は、マーリンによる魔力攻撃だ。火の矢ファイヤーアローが無数に青い巨体に襲いかかる。やはり、魔獣だ。火属性の攻撃には本能的に弱い。恐ろしい数の魔力攻撃によって、後ずさりするような形で後退した。


 そこに、ロッキー率いる分身たちが、怪物の脚を狙って突撃する。1体1体は弱く簡単に崩されてしまう土人形だが、砂のかたまりで、人間以上に身体に重みが詰まっている。強力な打撃が、太い脚を襲った。何度も足で振り払おうとするものの、物量に押されて怪物の脚に確かなダメージが入る。


「ごおおおおぉぉぉぉぉおおおおおおおお」

 雄たけびが周囲に散乱する。巨体は脚に負ったダメージによって、崩れ落ちるように傾いた。そして、俺の射程範囲内に入り込む。


 スーラの強力な毒を染み込ませた弓を、青き怪物の右眼まなこに放った。すでに、脚にダメージを受けている奴では回避行動がとれない。俺の攻撃は、完全に怪物の右目をとらえて直撃した。


「ごおおおおぉぉぉぉぉおおおおおおおお。ごおおおおぉぉぉぉぉおおおおおおおお」

 片目を奪われたことで、咆哮ほうこうは激しさを増していく。

 怒りに満ちて、持っていた棍棒こんぼうを振り回して、こちらを威嚇いかくする怪物。適当に振り回した攻撃が、偶然マーリンをとらえてしまった。


 しかし、すぐにスーラがサポートに入る。

 自分の身体を、マーリンの前に移動させて、身体ごと盾となる。


 強力な酸性の体液を持ったグリーンスライムの身体に触れた瞬間、木でできていた棍棒こんぼうは、瞬く間に溶ける。スーラの身体が持つ規格外の防御力によって、完全に怪物は攻撃手段を失う。


 攻撃が無効化されたことで、すでに崩れていた怪物のバランスは完全に崩れた。地面に向かって、頭から倒れていく。その瞬間を、熟練の冒険者であるボールスが見逃すわけがなかった。


「脚が動かせない上に、片方の武器と視界を失えば、もうあの巨体も怖くない」

 首を失った騎士は、いつの間にか怪物の死角に移動していた。これで完全に敵は反応が遅れて対処ができなくなっている。


 そして、最強の宝刀から、強力な斬撃が放たれた。空気すらもきざむような衝撃波によって、地面は割れていく。怪物は至近距離までそれが迫ってようやく危機を察したようだが、もうどうしようもなかった。


 巨大な怪物の首が、胴体どうたいと分離し、宙を舞った。左目をかッと見開いた怪物の頭は表情を硬くし、フロアに転がっていく。ずしんと大きな音を立てて、魔物は動かなくなった。


 俺たちはさも当然のように、魔物の遺体を無視して、階段へと向かう。


 ※


―王都(ナタリー視点)―


 夢を見た。その夢の中で、私たち3人はずっと仲良しで、定期的に出かけたり、お茶をしたりしていた。


 この夢から覚めたくない。ずっと3人一緒が良かった。自分の恋を、永遠に心の奥底にしまっても構わない。だって、センパイとソフィーさんと一緒に過ごすあのかけがえのない一瞬が、私にとっては最高の宝物だったんだから。


 グレア先輩とソフィーさんは、嫉妬しっとしてしまうくらい仲が良くて、お互いのことを思い合っていたはずなのに……


 父を政治に殺された私にとって、唯一安心できる居場所だったはずなのに。

 どうして、大事な人たちはみんなどこかに行ってしまうんだろう……絶対に手放したくなかった場所を、私は失ってしまった。


「夢だよね」

 目が覚めた時、私は短くつぶやく。この現実が夢だったらよかったのに。


 決別したはずの甘い世界を夢見てしまうほど、今日の出来事は私の心にを引いていた。


 私は、ひとりの人間の命を奪ったんだ。その事実の重みは、心の傷となってうずく。


 どんなに最低な男だったとしても、その事実を背負って、私は生きていく。

 その覚悟を決めている。


「会いたい」

 会って、いつものように彼に思いっきり甘えたい。ちょっとからかって、ムクれる彼の顔をもう一度見たい。今まで言えなかったことをきちんと伝えたい。私をずっと支えてくれた彼に、今度は私が支える番なんだから……


 彼の立場になって考えれば、今回の事件がどれだけ絶望をもたらしたのか、痛いほどわかる。婚約者に裏切られて、信じていた国に裏切られて、ひとりでずっと孤独と戦っているはず。そんな時に、そばにいてあげることすらできなかった自分の無力さが悔しい。


 そして、彼が行方不明になってからもう1か月以上が経過している。その残酷な事実が、私の頭の中に絶望を作り出していた。必死に否定すればするほど、その絶望も深くなっていく。


 この運命を作り出した神様を呪いながら、目を閉じた。この1か月で何度目かわからないほどの涙が、枕をぬらしていく。


「大丈夫、センパイは絶対に生きている。私を残して死ぬわけがない。だから、どんなことをしてでも、必ず助けるっ」



―――――

ステータス


スーラ(グリーンスライムLv5)

 あまりの強さによって、群れから追い出されて生きてきた孤独なスライム。死の迷宮ラビリンスに定住し、浅階の主として、恐れられていた。戦闘中は、強力な酸性の体液を身にまとい、近接攻撃をほとんど無効化する。その身体の特徴を生かして、トラップを無効化したり、近接戦においては仲間の盾になったりと応用できる範囲も広い。1対1の近接戦となれば、その身体の特徴を生かして、ほとんどの敵に負けることはない。

 友達も兄弟も失っているため、グレアのことを種族の超えた家族のように慕っている。実際、スーラと会話できる存在は、数十年単位のレベルでいなかった。本来、群れで生息するスライムにとっては、その孤独は地獄のような苦しみでもあった。



(能力)左:現在/右:ポテンシャル

政治:10/10

武力:85/100

統率:20/30

魔力:1/1

知略:20/30

魅力:60

義理:90


(適正)

近接戦:S

騎:E

弓:E

魔:E

内政:E

外交:E

謀略:E


(特殊スキル)

・酸の身体

・物理攻撃無効

・???

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