第23話 新しい宝物&ナタリーの才能&浮気女のかつての親友

 俺は、土人形を新しく仲間に加えた。スーラと違って、テレパシー能力もないらしく、会話はできないが、とことこと小さな身体が俺たちの後ろにくっついてくる。


「しかし、どうしてダンジョンの地形が変わってしまったんだ? 上の階はほとんど同じだったんだろ?」


「そうでござるな。もしかすると、土人形の能力か何かが……」

 俺たちの言葉を理解しているんだろう。ボールスの問いに土人形は首を横に振る。


 というか、土人形じゃ呼びにくいな。なにか、名前を付けよう。また、安易な名前とか言われちゃうんだろうな。


 土人形の頭をなでながら話しかける。


「これから、ロッキーって呼んでもいいか?」

 なんとなく固そうだからという安易な考えだが、ロッキーは嬉しそうにうなずく。後方ではスーラとマーリンがくすくすと笑っていた。また、からかわれるのがわかっているので、無視して前に進んだ。


「よろしくな、ロッキー」

 いつもの隊列で、スーラが前に進んで、罠を軒並み潰していく。ワンフロアは基本的に罠だらけだった。普通の冒険者たちなら、ここで死んでいてもおかしくない。相変わらず、スーラのアンチ・トラップ能力は最強だ。


『ねぇ、グレア? なんか、あそこの壁、壊れてない??」

 スーラが指摘したのは下に続く階段の近くにある壁だ。さっきのマーリンの魔力攻撃の衝撃で壁が壊れたのかもしれないな。もしかすると、隠し扉か?


「近寄ってみよう」

 やはり、隠し部屋だ。魔石による灯りで、中を照らすと、複数の宝箱がある。


「やりましたな、グレア殿」


「しかし、グレア。こういう場所は罠だらけのはずじゃ。おそらく、偽装宝箱もたくさんあるだろうから……」

 まぁ、そうなるよな。スーラの特性を生かせば、罠は簡単につぶせるが……ダンジョンの地形が、まるで生きているかのように変化しているのが気になる。


 もしかすれば、このダンジョンがひとつの生物のようなものなのかもしれない。だとすれば、俺たちが下の階に移動するのを防ごうとしているような行動だ。つまり、スーラの能力を理解して、対策を練っている可能性もある。


 いや、ダンジョンが生物なんて、考え過ぎだとは思う。でも、嫌な予感がした。

 俺の渋い顔を見て、理解したんだろう。


 ロッキーがツンツンと俺の脚をつついた。ジェスチャーで自分に任せろと言っている。


「やってくれるのか、ロッキー」

 こいつは、嬉しそうに勢いよく首を縦に振った。


 そして、トコトコと前に出て、手を地面につけて震えた。さっき見た光景と一緒だ。地面からボコボコと土人形の分身が生まれていく。


 指揮官のロッキーは、その分身たちを部屋の中に進軍させる。部屋の中では、次々と罠が発動していく。いつもの毒矢などもあったが、そちら以上に恐ろしいものも存在している。


 魔力地雷だ。踏んだ瞬間、魔力が解き放たれて、爆発する。いくらスーラでもあの強力な爆発に巻き込まれたら、無事ではいられなかっただろう。ロッキーの分身たちは爆発に巻き込まれていくが、ただ砂に帰るだけであり、どんなすごい罠だろうが、前進を止めることはできない。


 分身がついに宝箱に到達した。3つあった宝箱のうち2つはやはりミミックだった。しかし、数の暴力でそいつらは簡単にボコボコにされた。残りの一つからは、長く立派な剣が出てくる。中央に宝玉が埋め込められていて、長い年月、宝箱の中に封印されていたはずなのに、一切のさびもほころびもない。


「まるで聖剣じゃな」

 マーリンは、感嘆するようにつぶやく。美しい芸術品を見ているような錯覚を受ける。ロッキーの分身は、10体以上でその剣をこちらに運び、俺に手渡す。だが、重すぎてもつこともできない。


「やはり、剣士ではない俺じゃ扱えないわ。ボールス、使ってくれ」


「よ、よろしいのですか。こんな貴重なものを?」


「仲間の中で使いこなせるのは、お前しかいないだろ。受け取ってくれよ」

 ボールスは、「つつしんで」と短くうなずく。そして、俺が重すぎて動かすこともできないレベルのものを、軽々と振るい、まるで古くからの愛刀のように取り扱う。やっぱり、元A級冒険者で、長年、この最悪のダンジョンで冒険者たちと戦ってきた怪物だ。もしかすると、S級レベルに足を踏み入れているのかもしれない。


 これで戦力は格段に上昇している。ロッキーの分身能力は、数の力でこちらを優位にしてくれる。パーティーのエース的な存在であるボールスは、ダンジョンに厳重に隠されていた聖剣を手に入れた。


 あとは、この腐った王国の守護竜を倒すだけ。こうして、俺たちの地下10階攻略は完了した。


 ※


―王都(アカネ視点)―


 私は公爵邸に戻り、状況を2人に報告する。

「マルスの処理は完了しました。これでこちらの謀略がバレる心配もないでしょう。しかし、残念ながら、グレア様は西方に護送されたという情報だけしかつかめませんでした。それ以上は、情報局の最高幹部クラスでなければ、知っていないようですね」


「ご苦労。これ以上の情報局へのアプローチは難しいな」と公爵様はねぎらいの言葉を投げてくれる。


 そして、ナタリー様は複雑な顔をしていた。それもそうだろう。今回の件で、作戦を考えたのは彼女だから。


 私が直接、マルスを処理してしまえば、情報局にこちらの叛意はんい漏洩ろうえいする可能性が高くなる。こちらを監視していた局員の不審死となれば、疑われるのは私達だ。だからこそ、情報を聞き出した後のマルスが情報局員に殺されるように……殺されてもおかしくないように、段取りをつけていったのはナタリー様の力だった。


 マルスの弱みを聞き出し、コウライに偽装した証言と証拠をでっちあげさせる。あえて、真実を織り交ぜた情報は簡単にプロすらもあざむくことができてしまった。情報局は、このスキャンダルに対して、自分たちのメンツを優先して、マルスを秘密裏に処刑する。すべての謀略のシナリオは、この若き女性によって描かれた。


 こんなことが起きなければ、発揮されなかった才能。10代の女の子が背負うには重すぎるカルマとも思える。


 しかし、彼女は気持ちを切り替えて、極めて冷静に次の局面に必要な手を打ち出してくる。


「冒険者ギルドに協力を依頼してはいかがですか?」


 ※


―学園(ソフィー視点)―


 私は、陰口をたたく学生たちから逃げるように自室に戻ろうとする。廊下の角を曲がると、一番会いたくない学生と鉢合はちあわせしてしまった。


「あっ」

 異口同音に驚きの声が上がる。


 グレアとの破局まで、ずっと仲良くしてくれていたマリーさんがそこにいた。

 あの事件のせいで、彼女は私を避けるようになっていた。だから、なるべく顔を合わせないようにしてきたのに……


「ごめん、私、行くね」

 また、私は逃げることを選ぶ。でも、彼女はそれを許してはくれなかった。


「待って、ソフィーさんっ!! 聞きたいことがあるの……」

 かつての親友は私を優しく呼び止めた……

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