第21話 乱戦&諜報戦&NTR物語のその後
俺たちは敵味方入り乱れた乱戦に突入した。
ボールスが土人形を次々と斬り捨てていく。スーラは後方の俺たちを守りながら、土人形を倒していった。マーリンは前衛が時間を稼いでくれているうちに、詠唱を行い、敵の後方を吹き飛ばす。
土人形たちは一体一体の実力はそこまでではない。俺でも殴れば、形を崩して四散してしまうからだ。これがやつらの厄介なところ。術者である土人形の核を倒さなければ、乾いた土がある限り次々と復活する。倒したはずの砂からも、新しい敵が生まれてしまうのだ。
歴史で勉強したことがある。かつて、大陸全土を巻き込む覇権争いの際、ローザンブルク王国が大陸最強を誇った大国・神聖ヴォルフスブルク帝国を破った戦略……人海戦術。
人口の多さを生かして、敵を圧倒する戦力を確保し、敗れようとも敵が崩れるまで突撃を繰り返す。そうすれば、どんなに強い敵でも疲労と物資の不足で敗北する。
「倒しても、倒してもきりがないぞ」
マーリンは俺たちの絶望感を言葉に表現した。終わりが見えない。その絶望感が疲労の蓄積を早めて、判断ミスを誘発する。俺たちにもその瞬間が訪れた。
ボールスとスーラの前衛の守備は一瞬のスキを突かれて、一体の土人形を取り逃し、一番守備力の手薄なマーリンが狙われた。こいつらは身体は小さいが、攻撃力はかなり高い。
まずい。マーリンが一発でもダメージを食らえば、魔力が使えなくなり、最終的には数の暴力で俺たちは飲まれてしまう。
「グレア、なにをっ!?」
身体が勝手に動いていた。マーリンと突破した土人形の間に入る。そして、激痛が全身に走る。肩をやられた。その衝撃で、俺は壁まで吹き飛ばされて叩きつけられた。
「グレア殿っ!!」
『グレア!』
前衛はただちに突破した土人形を粉砕した。マーリンは慌ててこちらに駆けつけて救護活動に入る。
「どうして、こんな無茶を……」
「ここでお前がやられたら、勝ち筋はなくなるだろ?」
思えばマーリンは、俺の命を狙った情報局側の敵だったはずなのにな。いつの間にか、変な信頼関係ができあがちまったな。
「お主というやつは……」
助けられた奇術師は、苦笑いしている。
「マーリン、俺たちもう仲間だろ?」
そういうとあいつはプイッと顔を反転させて、表情を隠す。すなおじゃないな。
「お主たちだけは絶対に助けてやる」
※
―マーリン視点―
わしは生まれてからずっと孤独だった。奇術師は基本的に群れることはしない。
お互いを信用していないからな。
頭が良すぎるがゆえに、相手の立場になれば、無条件の友情や信頼など簡単に壊れてしまうと理解している。
よって、奇術師は己の魔術の才能と知恵を頼りにして、一人で孤独に生きて、死んでいく
わしもそれに従っていた。魔石を集めて研究し、ゴブリンや人間を利用して生きていく。魔族ゆえに人の絶望は本能的な快楽と結びつく。だから、この死の迷宮とイブグランド王国の役人たちとの
なのに……
本来持ってはいけない気持ちに支配されていた。この
この1か月。あいつらと一緒に過ごすのは楽しかったんじゃな。
こいつらを知る数百年よりも、こいつらと過ごした1カ月ばかりが頭に浮かんでくる。
わしは、まだ、冒険を続けたかった。
ならば、こいつらを排除するのみ。
砂。
復活条件。
本体。
敵の情報を整理する。
目的が明確となって、思考がクリアとなったわしの脳内はすぐに結論を導き出した。
「ならば、これが最善手じゃ」
解放した魔力は、フロア内の天井に向かって、爆発した。
※
―王都(アカネ視点)―
「追跡者。まさか、情報局か?」
公爵閣下の問いに私は
今回の件、私にとっては痛恨の失敗だった。まさか、坊ちゃんが狙われるなんて思わなかった。やはり、私が学園についていくべきだった。そうすれば、あの
ああ、グレア様。あなた様は私の命の恩人なのに、申し訳ございません。もし、あなたに何かあれば、私が関係者すべてを殺し、この命をもって償わせていただきます。お許しください。
「いま、姿が見えました。情報局員のマルスとコウライです」
すでに、極秘とされている情報局員の構成は、頭に叩き込んでいる。
「まさか、私たちの調査をかぎつけたのでしょうか?」
「ご安心ください、ナタリー様。そんなヘマはしておりません。おそらく、情報局は今回の農務卿辞任の件で、公爵様に
ナタリー様は安心したように笑う。守りたい、この笑顔。そもそも、私はずっとグレア様とあの裏切り女の婚約には反対だった。政治的な判断だから、仕方がなかったとはいえ……
本来なら、坊ちゃんはナタリー様と一緒になるべきだったのだ。どう考えても、それが運命だったし、それが一番幸せ。
でも、ちょうどいい。私の大事な坊ちゃんに危害を加えた連中に、少しお
「閣下、馬車を任せてもよろしいですか?」
「ああ、行ってこい」
手綱を交換すると、私は勢いよく荷台を走り、追跡してくる馬車へとジャンプする。これくらいは朝飯前よ。
「なんだ、お前は……」
情報局員のマルスは、飛び移ってきた私の行動に驚き、悲鳴を上げようとする。でも、残念。ここは人の少ない路地。この時間なら誰も通らないわよ。だから、悲鳴をあげてもム・ダ。
中肉中背。さすが、情報局員。特徴がない普通の顔をしているわ。スパイにピッタリ。
「知らなくてもいいことよ。おやすみ、マルス」
身体に隠していた神経毒をたっぷり仕込んだ
ふふ、これでひとりゲット。
もうひとりの情報局員であるコウライはあわてて、馬車の手綱を引き、馬を停止させた。
「いくらなんでも、いきなりすぎるだろ、アカネ」
コウライはあきれたように苦笑している。
「誘導ありがとう、
この日が来るまでずっと待っていたのだ。坊ちゃんの誘拐に関わったはずの情報局員と協力者が一緒に私たちを尾行する日をずっとね。あとは、コウライに協力してもらえれば、自然に真相を知っているだろう容疑者のひとりを確保できる。
マルスは、坊ちゃんが行方不明になった日に1日だけ王都から姿を消していた。なにかの工作に関わったとみていいだろう。残念ながら、協力者は国境沿いの調査で王都を留守にしていたせいで、何が起きたかは把握できていないみたい。
さぁ、坊ちゃんを苦しめた者たちには、私の故郷の尋問方法でいろいろと教えてもらうわよ。楽しみにしていてね、マルス。
※
―学園(ソフィー視点)―
父上から事実上の勘当されてしまい、私は本当に殿下しかいなくなってしまった。
温情として、学費は卒業まで払ってもらえて、正式な縁切りの手続きはしないようにしてくれたけど。だから一応、身分としては貴族のまま。それ以外のすべてを失ってしまった。
父上は、賠償金のために、領土のほとんどと王都の屋敷を売り払ったと聞いている。私たちは名ばかり貴族のような状況で、苦しい生活を送らなくてはいけなくなった。
暗い気持ちで、学園寮の外に出た。ただの散歩。こんな状況になってしまったせいで誰とも会いたくない。だから、森の中をゆっくりと歩く。
森の中で動く人影を見つけた。学生たちが連れ立って散歩しているのだろう。私はあわてて、茂みに隠れる。
『なぁ、聞いたか。ついに、ソフィー、勘当されたんだってな』
『聞いた、聞いた。伯爵もほとんどの財産売ってもまだ足りなくて、いろんなところに何度も頭を下げながら借金しているそうよね、悲惨だわ』
『あんなんじゃ、卒業しても、どこにも働けないし、お嫁にも行けないよねぇ。でも、王太子殿下がいるからいいのかぁ。将来だけは安泰なんてうらやましい。なりたくないけど』
『そりゃあそうだろ。でも、グレア本当にかわいそうだよな』
『これだけ探しても見つからないなんてねぇ』
『きっと絶望しちゃったんだろうね』
心無いうわさ話が、聞こえてきてしまった。私は、震えながらその場から逃げた。
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